中編・王様の耳はロバの耳 | ナノ
王様の耳はロバの耳 9


 今日も一日お疲れ様ーとばかりに、私は帰り支度に勤しんでいた。ちなみに蔵馬君は彼が所属している生物部へと向かわれました。

 そしてこれまた余談だが、今日の、とゆーより最近の蔵馬君コレクションの収穫はサッパリ。武術会が終わって負荷が無くなったからだろう、授業中も休み時間も全く隙が無くって、鉄壁の防御を誇っている。作られた表情の写真じゃまったく萌えやしない。

 お陰で私のテンションダダ下がりだ。……ハァ。


「…………い、……らま!!!」


(ラマ?)


 聞こえた単語に首を傾げるが、動物だろーと、ノーベル賞の人だろーと、どちらが居ても大変だ。いたいや、何やら構内が騒がしい? 誰か叫んでいる?

 放課後居残っていた、ざわつく野次馬の一人になって、騒音の原因を覗いてみたら。


「おーーい! 蔵馬ーーー!!!! どこだーーー!!!」


 桑原君とぼたんさんが構内を蔵馬君の名前を大声で叫びなら走り回っていた。


(おお! ということは!!)


 時期が来たみたいだ!

 大声で隠してある名前を叫ばれ続ける蔵馬君に若干同情しながら、私は適当に時間を潰して生物部に顔を出してみた。

 そこには、呆気に取られた生物部の部長さんがぽつーんと。


「部長さん、どうしたんです?」

「あ、ああ。いや、南野とその友達が……」


 すごい勢いで、出て行ったと。呆然とした表情で教えてくれた。ハハハ、どうやら彼らは無事に出会えたようだけど、きっと部長さんは滅多に見られない焦った様子の蔵馬君でも見たのかな?

 蔵馬君にしては珍しく随分慌てていたんだろうね。彼の学生鞄が乱雑に投げ出されている。


「部長さーん、私南野君と同じクラスの者なんですよ。この鞄、彼の教室まで届けておきますねー」

「そう……だな、宜しく頼むよ」

「はーい」


 そうして頼まれた私は取りあえず、散らばった彼の荷物を纏める事から始めた。

 ……のだが。


(こ、これは……!!!!)


 それを手に取った私はブルブルと震えた。私の手には新品同様の教科書が握られている。

 あろうことか! 一年の時から使われている筈のソレは、転入したての私の教科書と全く遜色しないほど使われた形跡が無かったのだ!!

 つまり、ノー書込み!! しかもノーネームの新品同様!!

 学年トップって教科書チラ見で成れるもんなの!? 天才ってヤツ!?


 私はゴクリと喉を鳴らした。


(ひ、拾ったお礼の一割……)


 今回拾った(?)のは中身ギッシリの学生鞄だ。


(神よ、感謝いたします……!!!)


 コッソリ私の教科書と交換しておきました。これもあくまで御礼を先に頂いただなんだぁぁぁぁあああ!!


++++


 そして後日。

 私の手には、とあるビデオテープが握られている。先日お見舞いに来てくれたお礼に何か、と言ってくれた律儀な彼の申し出に甘えて、お願いしていたモノだ。


「お代官様、ありがとうございますー!!!!」


 私が握手を求めると、海藤君もガシリと握り返してくれた。

 嬉しくて涙腺が緩みそうだ。もっとも海藤君には、表情が緩みまくって気持ち悪いと言われたけど。

 いーんだ!! これが喜ばずにいられるかってんだ!!!

 事前に、海藤君からお世話になった霊能者こと幻海さんの発案で、蔵間君達相手に一芝居打つとゆー話を聞いた私は、即座に彼に願い出たのだ。


「バッチリ撮れたんだよね?」

「確認済みだよ。オレとの勝負の一部始終を余すことなく撮ってある」


 ほうほう、と言うことは『例のシーン』もバッチリなんだよね!!


 鑑賞するのが楽しみだーーーー!!!!


「試合に負けて勝負に勝ったって感じかな」


 大丈夫! 負け惜しみだねって思ってないから、海藤様!!!


++++


 珍しく、おとー様こと閻魔様に呼び出された。おにー様ことコエンマは随分前に出て行ったっきり戻ってきていない。それと関係があるのかな?


「弥美よ、コエンマは戻ってきたか?」

「いいえ、まだ戻ってきてませんよ」


 相変わらず大きなヒトだ。見上げ続けると首が痛いから、手短に話してくれないかな。


「お前は兄から何か聞いておるのか?」

「何をです?」

「いや、知らぬならよい。自室で大人しくしておれ。決して外に出てはならんぞ」

「はーい」


 そう言って背を向けたおとー様は、どこか哀愁を漂わせていた。最近おにー様もシリアス一辺倒な顔してたし、二人ともお疲れのようだな、と自室に戻って考えていたら、警戒サイレンが鳴り響きだした。


「その場を見られないのは残念だけど……」


 確かもうすぐ、魔界の扉(結界)を開ける開けないの騒動が終わる筈だ。昔見た知識を総動員して今起こっている事を思い出してみる。

 でも確か最終回で、魔界の結界が解かれて驚く桑原君の記憶がある。どっかのファミレスで叫んでいたような?

 だからぶっちゃけ、今起こっている事は、そんな事もあったねーと昔の笑い話になる筈なのだ。


「だけどねぇ……」


 例え一時的な仮の家族とはいえ、家族が落ち込んでいる姿を見るのは切ないものがある。大事にされていると分かる分、余計にね。

 とはいえ、おにー様の場合は前・霊界探偵さんとの個人的な問題だし、おとー様の場合は自業自得なしっぺ返しだっけ?

 さて。

 私はどうしようかな?

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