- ナノ -


彼の人の故郷、ケテルブルク:01


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イオンを連れた一行はタルタロスに乗り込み、ダアトを後にした。
目的地はグランコクマ。久しぶりの帝都だ。

しかし、先程からタルタロスの機関部から妙な音がしているような気がする。
魔界からセフィロトツリーで上がったりと通常の艦ではありえない使い方をしてしまったのだから何処かいかれているのだろう。
魔界の泥が入り込んでいる、とジェイドも言っていたし、今走っているだけでも奇跡だ。

「へぇ、タルタロスって水の上でも普通に走るんだな」

驚いた、と隣で声を上げたのはルークだ。

「まあ水陸両用で作られた艦だからな。だが、水上走行はおまけのようなもので速度はでないんだ」

「でも、充分だと思うぜ!てか、ナツキはよくこんなの操縦できるよなぁ……」

画面を見ながら操縦するナツキにルークが感心したように言う。
確かに沢山の文字の羅列とボタン配置のあるタルタロスの操縦は慣れなければ難しい。
慣れだよ、慣れ、とタルタロスを操作しながら笑う。


――ズゴォオオン


「ぉわっ!?」

突然、タルタロスが大きな音を立て、ぐらりと揺れた。
操作画面が真っ赤に染まり"Error"と真ん中に大きく書かれている。
慌てて画面に飛びつき操作するが、走行機能に問題が出たらしく動かない。

「な、何があったんだ!?」

「機関部がやられたみたいだな……」

こればかりはここにいても何にも解決できない。
船橋から飛び出し、船内にいるジェイドに声をかける。

「すいません、大佐!少し手をお借りしたいのですが!?」

「俺も行くよ、音機関の修理なら少しは手伝える」

ジェイドとガイをつれ、機関部へ入った。
機関部にある音機関のひとつが煙を上げている。
慌てて駆け寄り、メーターを見ると異常値を示している。

「……どうすれば……」

「なあペンチとか工具はあるか?」

口元に手を当てて考えているとガイがひょいと覗き込み、尋ねてきた。

「ああ、そこの棚に――」

「これか、よし。……ちょっとどいててくれるか?一時しのぎくらいにはなると思う」

ペンチを片手にガイが音機関を弄り出した。
もくもくと白い煙を上げていたそれが徐々に弱まり、異常を示していたメーターが正常値に戻る。

「さすが、偏執狂ですね」

「……偏執狂で悪かったな」

誉めているのか誉めていないのか良く分からないジェイドの言葉にガイは顔を引きつらせた。
彼なりに誉めているのだろうが、素直じゃない分分かりにくい。

「出来ればどこかで修理できたらいいんだが……」

「……ここから一番近い港は……ケテルブルクですが、どうしますか大佐?」

"ケテルブルク"という単語を出した瞬間、ジェイドが一瞬表情を硬くしたような気がして俺は頭上にはてなを浮かべた。
ケテルブルクに何か嫌な記憶でもあるのだろうか?
しかし、なんにせよ、どの道他に停泊できる港などない。

「……ケテルブルクですか、まあいいでしょう。ナツキ、頼みましたよ」

了解しました、と軽く頭を下げ、俺は機関部から船橋へ戻り、操縦可能となったタルタロスの船頭をケテルブルクに変えた。




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