ダアト:01
─────---- - - - - - -
ぬかった。気を抜いていた、というしかない。 しっかりと両の手を背後で縛られ、口には猿轡がある。
「〜〜〜っ!!」
無理やり腕を動かすと、腕を縛った縄がぎしぎしと音を立てた。 ついでに縄が擦れて手首に痛みが走った。
苦々しげに顔を顰める。 共に行動していたナタリアとイオンも掴まった時に引き離されてしまった。
街中だとつい気を抜いていたのが不味かった。 背後から忍び寄る神託の盾兵に気がつかなかったのだ。 あっという間だった。ナタリアを人質に俺とイオンの動きを制御されてしまった。
まったく、油断していたあの時の自分を殴りたい。
ダアトはローレライ教団のお膝元だ。 よく考えれば神託の盾騎士団がいる事ぐらいすぐに分かるはずなのだ。 なのに――
(中佐失格、だな……)
小さく息を吐き出し、猿轡をかみ締めた。
服の下に隠していた小型ナイフは取られてしまったが、幸い右腕に収納していたレイピアは取られていなかった。 足は拘束されていないから部屋の中は歩き回れる。 忍び足で扉に近寄り、外の気配を感じ取る。
(……ひとり、か)
舐められたものだ。 とりあえず、腕を拘束している縄をどうにかしなければ。 扉から離れ、レイピアを収納している右腕に集中する。 パチ、と静電気のような音を立て、右手にレイピアが出現する。
「……っ」
うっかり左腕を斬らない様に注意しながら、レイピアを動かす。 徐々に腕を拘束する力が緩んでくる。
(あと、もう少し……)
ぷつ、と縄が斬れ、腕が自由になる。手首が赤くなってしまっている。 猿轡をさっさと取り外し、ファーストエイドを小声で唱えて手首を治療した。 くるくると手首を回し、調子を確認する。
(大丈夫、いける)
そっと扉に近づき、気配を感じ取る。 人数は先程と変わらない、ひとりだけ。
3、2、1――
心の中でカウントをとり扉を蹴破るようにして飛び出した。
「――なっ!」
「双牙突!」
白い鎧を着た神託の盾兵が突然飛び出した俺に慌てて剣に手をかけたが遅い。 素早く懐に入り込み、レイピアを二度にわたって突きつける。 鎧を通り越し、相手の急所を貫き殺す。
どさり、と神託の盾兵が倒れこんだ。
殺す事は無かったかもしれないが、今は急いでいる。 他人の命まで気にかけている暇は無い。
倒れている神託の盾兵を一瞥し、ばっと駆け出した。
「……ふぅ」
小さく息を吐き出した。 先程から隠れてばかりだ。 神託の盾本部はローレライ教団の地下に作られている。 そのため出入り口がひとつしかない。 地上なら窓からでも外へ出れたのだが、地下となれば出入り口を探すしかない。
入り組んだ、迷路のような廊下を必死に走り回っているが、未だ出入り口は見つからない。 その上ナタリアやイオンが何処にいるかも分からない。
まだナツキがあそこから脱出した事は知られていないようだ。
――ゴォオオン
「……?」
何処かで銅鑼がなる音がする。 これで何度目か。一体誰が鳴らしているのか知らないが喧しい。
かちゃ、と目の前の扉が開き神託の盾兵が出てきた。
「集合の合図か?……お前何者だ!!」
「大声上げるな、よっ!」
レイピアで首を貫くとそのまま横へ薙ぐ。 赤い血が飛び散り、ぼろりと首が落ち鈍い音を立て地面に転がった。
そういえばこいつは集合の合図、と言っていた。 なるほど銅鑼は集合の合図に使われているようだ。 先程から銅鑼を鳴らしているのは恐らくナタリアとイオンを救出しに来たジェイド達だろう。
ついさっき鳴った銅鑼の音は随分近かった。 ならばこの近辺にいるはずだ。
レイピアを振り血を払い、駆け出した。
─────---- - - - - - -
prev ◎ next
|