- ナノ -


情報収集:01


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ど、と光の束がタルタロスを押し上げた。
今までにないほどの衝撃にナツキは歯を食いしばり、振動に耐える。
急激に上昇しているせいだろう、重力に押しつぶされそうになる。

あっという間だった。

外殻大地まで伸びたセフィロトツリーと共に押し出され、タルタロスは青い海に着水する。
空は紫色じゃない。青色だ。その事実にほっと息を吐き出し、いつもの大地に戻ってきたのだと実感した。

「上手く上がれたようですね」

「それで?タルタロスをどこに着けるんだ?」

ガイがアッシュに尋ねた。

「ヴァンが頻繁にベルケンドの第一音機関研究所へ行っている。そこで情報を収集する」

奴の行動を洗う必要がある。とアッシュは続けた。
そういえば、とそっとお腹に触れた。
今はもう傷跡もないが、ここをヴァンに斬られた。

――お休み、我が同郷の者よ

同郷、という事は、ヴァンもホド出身者という事になる。
ヴァンがナツキの故郷の事を知っていたのも驚いたが、同郷という事にはもっと驚いた。
あの時は意識が混濁していたからそんな力もなかったけれど。

それはさておき、現在地のデータが出た。

「ベルケンドは此処から東ですね」

「よし、向かうぞ」

アッシュが頷き、俺たちはタルタロスの船頭を東に向けた。

水陸両用とはいえ、タルタロスは本来陸艦だ。
水上では陸上で走る速度の半分も出ない。
そもそも陸上でもこの人数では思うように動かせないだろうが。


ベルケンド港にタルタロスをつけ、ナツキ達は降りた。
降りるなりさっさと歩き出すアッシュの後をナタリアが追いかける。
アッシュが"ルーク"だと分かってからナタリアはずっとあんな調子だ。
だが当の本人は"ルーク"と呼ばれるのが嫌なようで、ルークと呼ぼうものなら射殺すように睨まれる。

「街は南だ。さっさと行くぞ」

ナタリアが何か話しかけていたがアッシュはそれを無視し歩き出した。
ルークはルークで面倒くさい部分があったが、あれはあれで扱いづらい。
先を進むアッシュの後をジェイドと共についていく。

「ベルケンドに行けば、主席総長の目的ってのがわかるのかなぁ?」

「まずはベルケンドの第一音機関研究所に行ってみるしかありません」

「そこで何か分かればいいですね、大佐」

大佐の言葉に相槌を打つ。

「きっと手がかりが見つかりますわ」

にこりと笑ってナタリアが同意する。
和やかな空気が流れている、と思った時だった。

「……そう上手くいくかねぇ」

「ガイ!何ですの!?その態度は……!」

下向きなガイの言葉にナタリアが噛み付くが、ガイはさっさと足を速めて先へ行ってしまった。
ガイはルークと離れてから刺々しい。主にナタリアに。
色々と思う事はあるのだろうが、少々目に付く。

ジェイドに軽く頭を下げ、先を行ったガイの隣に小走りで向かう。

「ガイ」

「なんだ?」

「少し苛立ってるのか?」

俺の問いにガイは苦笑し、誤魔化すように後頭部をがしがしと掻いた。
ふぅ、と重いため息をつきガイは苦笑したまま答えた。

「苛立ってはいない、と思うんだが……」

そう見えたか?と聞かれ、小さく頷いた。
誰がどう見ても此処最近のガイは雰囲気がぴりぴりしているというか、尖っている。

「心の整理がついてないって感じか」

「そうだな、うん」

アッシュとルーク。

七年前以前を共に過ごした"ルーク"
七年間共に過ごした"ルーク"
その二人の間に立つガイ。

色々考えれば、苛立ちもするだろう。
人のいいガイの性格だ。ぐるぐる考えすぎて変に悩みそうだ。

「……なあ、ナツキ。俺……ルークを迎えに行こうと思う」

「!……そうか」

ガイが"ルーク"と呼ぶのはレプリカのルークの方。
驚いたもののそれを表情には出さず、ただ頷いた。
"ルークを迎えに行く事"を止める気はナツキにはなかった。

「アッシュにはナタリアがいる。じゃあルークは誰が支える?」

「……」

「俺しかいない、だろ」

そういう事か。それで、悩んでいたのか。
ナタリアに最近冷たくなっていたのは、ナタリアがアッシュばかりを押してルークをそっちのけにしているからか。
ガイが悩んで決めたのなら、俺は止めない。

何も言わずにいるとガイは困ったように笑い、ナツキの肩をぽんっと叩いた。





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