前夜:02
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そもそも、俺が彼――ジェイド・カーティス大佐の補佐につけられたのは突然だった。 なにやら理由があり大佐に急遽補佐が必要になったらしい。 それで譜術も剣術もそれなりにできる俺が選ばれたというわけだ。
「――つまり、その親書をキムラスカまで届けると」
「はい、そうです」
これからの長期任務について、ジェイドは簡潔に説明した。少々驚きつつも、俺は頷いた。 何故、こんな重要な任務の補佐に俺が選ばれたのか理解できない。 が、任された以上はやり遂げるほかない。
「ご迷惑おかけして、すいません」
たった今しがた入ってきたのは緑色の髪をした少年だった。 ぱっと見ただけでは女の子のようだが、声は男の子だ。 少年は本当に申し訳なさそうな顔をして俺達に頭を下げた。
「イオン様!その様に頭を下げる必要はありません!」
俺は慌ててイオンの頭を上げさせる。 世界平和を祈っているのは誰だって同じなのだ。 和平のためにイオンがいてくれるのはとても心強い。
彼は柔らかく微笑んだ。
「あなたは優しいですね」
「い、いえ……」
突然のイオンの言葉に俺は驚き、顔を赤くして否定する。
「……出発は明日、早朝です。準備をしておいてくださいね」
ジェイドはそれから、今日はゆっくり身体を休ませてくださいと付け足した。 俺は一礼してジェイドの執務室から出た。
明日のことを考えて顔を引き締める。 ジェイドは陛下の懐刀と呼ばれているらしいし、彼に任せるということはそれだけこの和平条約を期待しているということだ。 失敗は絶対に許されない。ジェイドの足手まといにならないようにしなくては。
手を握り締め、俺は早速明日の準備のために脚を動かした。 蒼い色をしたコートがナツキの動きにあわせて揺れた。
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