アクゼリュス崩落:03
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ティアの譜歌に守られてなんとかルーク達は怪我をすることなく落ちることができた。 オールドラントの内側を見て全員が絶句した。
一面に広がるのは紫色の瘴気の海。他には何もなかった。 今しがたできたであろう、アクゼリュスの残骸がぷかぷかと浮かんでいるだけだった。 他の仲間の顔色を伺うとやはり真っ青だった。 ジェイドの顔色はいつもと同じだったが、表情は焦燥していた。 辺りを見回し、誰かを探しているようだった。
そこで漸くガイは、一人足りないことに気付いた。
ナツキはそもそもあの場にいなかったのだ。 ということは、ティアの譜歌の守護を受けなかったということだ。 生身の人間が遥か上からこんな瘴気の海に叩きつけられて無事なわけがない。
それでもジェイドは僅かばかりの希望を抱いてか、辺りを見回している。 その焦り方はジェイドらしくない。いつも冷静であるジェイドがああも取り乱しているのはナツキを大切に思っているからだろう。
「――ナツキッ!」
「た、大変ですわっ!」
ティアとナタリアが大声を上げた。 さっとガイがそちらに視線を向けると、小さな木の板に少年が座っていた。 その木の板に手をついているのは金髪の男――そう、ナツキだ。 いつもは後ろで縛られている髪も紐が切れたのか散らばっている。 彼の身体は胸元から下が瘴気の海に浸かってしまっていた。 意識がないのか、ぐったりとしている。
ジェイドが急ぎ足で、ティアとナタリアの元へと向かった。 ガイも同様にそちらへ向かう。
少年が助けて、と悲鳴を上げている。が、距離が遠く助けることができない。
「ナツキ!起きなさい!私の声が分かりますか!?」
今まで出したことがないような焦りを含んだ声でジェイドが言った。怒鳴り声に近い。 しかし、ナツキはぴくりとも反応しない。もう死――?いや、やめよう。 頭を過ぎった嫌な予感をガイは振り払う。
「とりあえず、ここからでも治癒魔法を唱えてみましょう」
届くか分かりませんが……とナタリアが顔を顰めながら、治癒魔法を唱え始めた。 ティアも同じように治癒魔法を唱える。
「……駄目、か?」
やはり距離があると治癒魔法が効きにくいようだ。 ティアもナタリアもかなりの治癒士(ヒーラー)だが、あまり効いている様にはみえなかった。 険しい顔をしてジェイドはひたすらにナツキの名を呼びかける。
それらが幸いしてか、ナツキの指先がかすかに痙攣し、ゆっくりと頭を擡げた。
「ナツキッ!」
ナツキの意識が戻ったことに喜び、彼らは名前を呼ぶが、ナツキの様子が可笑しい。 ぼんやりして焦点の合わぬ目できょろきょろと見回している。
「――まさか、目が……!」
ジェイドはその様子に苦々しい表情を浮かべて言った。 しかし、ナツキの様子を見る限り、それしかありえなかった。
最悪の事態にガイは顔をしかめた。
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