- ナノ -


アクゼリュス崩落:01


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デオ山脈を越えればアクゼリュスまでは山の入り口から十数分歩けばたどり着く。
炭鉱の街のため空から見ると地面に大きな穴が開いている。
その中にアクゼリュスはあるのだ。

アクゼリュスは酷い瘴気が発生しており、視界が悪い。
その上呼吸もし辛い。下手をすれば此方まで瘴気に侵されてしまいそうだ。
そこら中に倒れたり座り込んだ人々がいる。

ナタリアが駆け寄り、治癒譜術を唱え始める。

「お、おい、ナタリア。汚ねぇからやめろよ。伝染るかもしれねぇぞ」

「……何が汚いの?何が伝染るの!馬鹿なこと仰らないで!」

ルークの発言にナタリアは怒りを滲ませ、声を荒げた。
そしてそのまま倒れている人の治療を続けた。

とりあえずパイロープ、という村長代理から話を聞き、坑道に向かうことになった。

「ナツキ、貴方は此処で待っていなさい」

「!……はい、ここで救出作業しています」

坑道の奥はここよりも瘴気が強いようで、五体満足ではない俺が行くのは良くないだろう。
実際のところはジェイドと共に行きたかったが、仕方がない。
上官命令を拒否することは出来ない。

少し顔を顰め、それでもナツキは小さく首を縦に振った。
救出作業に取り掛かるナツキを置いて、ジェイド達は坑道の奥へと向かって行った。

ジェイドが坑道の奥に消えて行くのを見つめ、小さくため息をついた。
負傷した左肩を押さえ、目を伏せる。

「……無力だな、俺は……」

思った以上の成果が出せない自分に嫌気が差す。
だからといって、いつまでもじっとしていてはジェイドにイヤミを言われてしまう。

「私は出来ることはありますか?」

「ああ!あそこの小屋に動けない人を集めているんだ、第七音素が使えるなら治療してやって貰えるだろうか」

「はい、勿論です」

肩から手を離し、ナツキはパイロープが指差した小屋に入った。
中では瘴気に当てられた病人の呻き声がそこかしこで上がっている。
ベッドに寝かせられ、その顔色は酷く悪い。

とりあえず、端の男から治癒譜術をかける。

「癒しを、ファーストエイド……大丈夫ですか?」

「あ、あぁ……少し楽になった」

治癒譜術の光が男を包む。
男の頬に僅かに赤みが戻り、ゆるゆると顔を上げて俺を見た。

「俺はいいからそこの金髪の男を助けてやってくれないか……」

友人なんだ、と男は重たい腕を上げて隣のベッドに寝ている金髪の男を指した。
金髪の男はこの男よりも重症のようで、意識もないようだ。
一刻も早く治療が必要だ。
このような瘴気のある場所で治療をするよりも、
空気の良い場所へ連れて行くほうが良いのだがアクゼリュスの民全員を連れてデオ山脈を越えるわけにもいかない。
それに俺達だけでは全員を護衛しながら越える事は到底無理だ。

小さく頷き、金髪の男に近寄った。
血の気がうせて真っ青になった顔を見やり、ナツキは治癒譜術を唱える。
ティアやナタリアのようにキュアやメディテーション、ハートレスサークル等の上級譜術を使う事ができないため、
こうしてひとり一人に治癒譜術を施していくしかない。

「ファーストエイド……しっかり、わかりますか?」

「ぅ……あぁ……苦し、い……」

焦点が合っていない。
再度ファーストエイドを唱え、重ねてかける。

何度目かの治癒譜術で漸く金髪の男は表情を穏やかにし、緩やかに寝息を立て始めた。
まだ顔色は悪いが、最初よりかはマシだ。
これぐらい治療すればいいだろう。ナツキはオレンジグミを齧りながら立ち上がった。

慣れない第七音素を使うのは骨が折れる。
小さく息を吐き出し、今度は子供の治療を始めた。

粗方の治療を終え、ナツキは小屋の外へ出た。
相変わらず瘴気が酷い。坑道の奥は更に酷いと言っていたから、ここは"まだ"マシな方なのだろう。
それでもナツキには息苦しく、一刻も早くアクゼリュスから出たかった。

そこらに野ざらしにされた人を抱え、小屋の空きスペースへと寝かしたり、
毛布を地面に敷き簡易の寝場所を作り寝かせる。
右手のみで人を抱えるのは大変だったが、他の炭鉱の人達も手伝ってくれたため案外簡単に終わった。

汗を拭い、ナツキは第14坑道に続く穴を見つめた。
ここにジェイド達は入っていったのだろう。
確かにこの坑道の先から漂う瘴気は街の入り口よりも段違いに濃い。

(大丈夫、だろうか……)

心配そうに見つめていたのを気付いたのかパイロープが声をかけてきた。

「軍人さん、ここはもう十分なので坑道に行った方々を手伝いに行ってくださって結構ですよ」

「!……あ、そう、ですか……では、私も奥に行ってきます」

軽く会釈をし、ナツキは小走りで第14坑道に足を踏み入れた。




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