- ナノ -


上司の気持ち:04


─────---- - - - - - -



長い山道を歩き漸く折り返し地点に来た頃。
息を切らしていたイオンがとうとう膝をついた。
歩きなれない道を歩いたせいでいつもよりも疲労が激しい。

傍を歩いていたアニスとティアが素早くイオンに駆け寄った。
イオンは大丈夫、と言っているが顔色は悪くとても大丈夫には見えない。

「みんな、ちょっと休憩!」

アニスがイオンの"大丈夫"を押し切り、休憩を要求する。
それに嫌そうな顔をしたのは先頭を歩いていたルークだ。

「休むぅ?何言ってんだよ!師匠が先に行ってんだぞ!」

「ルーク!よろしいではありませんか!」

「そうだぜ。キツイ山道だし仕方ないだろう?」

嗜めるガイとナタリアをルークはむ、として睨む。
そして、胸を張り言い放った。

「親善大使は俺なんだぞ!俺が行くって言えば行くんだよ!」

「アンタねぇ……!」

アニスはとうとう声を荒げてルークに噛み付きかける。
これ以上仲間の輪が乱れるのを危惧し、ジェイドは面倒ながらも告げた。

「では、少し休みましょう。イオン様、よろしいですね?」

先頭でルークが何か怒鳴っていたが、あえて無視をした。
無駄な言葉を聞くことほど無意味なことはない。
イオンはルークに謝罪していたが、悪いのはルークだ。

「……ふ、」

「ナツキ、体調はどうですか?」

傍にあった倒木に腰掛けたナツキに尋ねた。
ナツキはジェイドを見上げ、問題ありませんと告げた。

顔色は先程からあまり変わっていない事を見ると、本当に無理はしていないようだ。

額に浮かぶ汗を袖で拭いナツキはルークを睨み見て、苦々しげに吐き出した。

「親善大使は戦争も止められる、なんでも出来る偉い奴だと思っているのか、あいつは……」

すっかり仮面が外れている。
ナツキの隣に腰掛、同じようにルークを視線で追いかけた。
ティアがルークに何か話しかけていたが、聞く耳もたずのルークに呆れた顔をして離れていく。

「ナツキ〜?上司の前なのに口調が荒れていますよ」

「……申し訳ございません。でも、今凄く怒っているんです」

――ルークのバカさに。

無理もない。あまり怒らないジェイドですら、今回のは少々かちんと来るものがあった。
我侭坊ちゃんに何を言おうと逆切れされるだけだとわかっているから何にも言わないが。

パチ、隣で閃光が走る。コンタミネーション現象だ。
次の瞬間にはナツキの手には水の入ったボトルが握られていた。
レイピアだけでなく、そんなものまで入れているのかとジェイドは苦笑した。

「あ、カーティス大佐、飲みますか?」

自分で飲もうとして上司の存在を思い出したのか、ナツキはボトルを差し出してきた。
キャップのあけられたボトルを受け取り、口につけ傾ける。
しっかりと冷やされた水が喉を潤す。

「第四音素で冷やしたんですけど、ちゃんと冷えてますか?」

「ええ、とても美味しいですよ。ありがとう」

感謝の言葉を述べ、ボトルをナツキに返す。
本当に器用だなとジェイドは感心した。

音素を自分の使いたい量だけ使い温度を調節するのは、譜術を極めたジェイドでもできない。
ジェイドの譜術は攻撃に特化しているため、そういう細々とした事は苦手なのだ。

「中佐、怪我の治療しますね」

ルークのところから戻ってきたティアがナツキにメディテーションを唱える。
治癒譜術のお陰で幾らかナツキの顔色が良くなった。
痛みも引いたのかナツキは表情を柔らかくした。

「ありがとう、ティア」

「これぐらいしか出来ませんので……」

ナツキの礼にティアは申し訳なさそうに笑った。
ジェイドには使えない治癒魔法を使えるのだからこれぐらい、と謙遜する必要はない。

十分ほど経った頃だろうか、腕を組み苛々としていたルークが声を張り上げた。

「おい!そろそろ行くぞ!これ以上休憩したら師匠が待ちくたびれるだろ!」

その声にナツキとティアが揃ってため息をついていた。




─────---- - - - - - -


prev next