- ナノ -


上司の気持ち:03


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タラップを渡ってカイツールの軍港に降りる。
ジェイドの隣を歩くナツキを見て、ナタリアとティアが駆け寄った。

「目覚めたのですね!良かった……」

「ああ、ありがとう。ナタリア、ティア」

にこりと笑みを浮かべるナツキにナタリアとティアは安心したようだった。
だが、ジェイドにはその笑みがどこか疲れていることに気がついた。

肩を骨折して内臓損傷の重体患者なのだから無理もない。
あまり無茶させないようにしなくては再び倒れてしまうだろう。
無茶をするな、と注意しても恐らくナツキは無茶をする。そういう人間だ。

(見張っておきますか……)

面倒だが、倒れられるよりはマシだ。

「お、ナツキ、目覚めたんだな!」

「ガイもありがとう。心配かけたな」

「しんどかったら、いつでも言ってくれよ」

負ぶってやるよ。とガイは笑った。

重傷でデオ山脈を越えるのは大変だろう。
そもそも内臓が損傷している時点で絶対安静だ。
しかしアクゼリュス救出の使命がある以上、先を急がなければいけない。
ナツキのために休んでいる暇はないのだ。
ナツキもわかっているため、辛いだろうに何も言わない。

デオ山脈はカイツールから北東にある。
山麓に近づくにつれて道が険しくなってくる。
まだ山にもついていないというのに、ナツキは息を切らしている。少し顔色も悪い。
歩調も仲間より遅れている。

殿を勤めるジェイドはナツキの隣に歩み寄る。

「大丈夫ですか?」

「……っはい……大丈夫です。まだ……」

額に汗を滲ませているナツキは真っ白な顔をしながらも頷いた。
まだ、という事は途中で大丈夫じゃなくなるな、とジェイドは予想する。
その時はガイに頼み、ナツキを負ぶってもらおう。
割と魔物が強いデオ山脈で戦力が削られるのは痛いが致し方ない。

(親善大使殿に頑張って貰うとしましょうか)

先頭を進む赤髪をちらりと見た。
アニスと何かを話ながら、大股で歩いている。
少し歩調は早い。ヴァンに追いつきたいがために大股になっているのだろう。
今のところは全員がルークに合わせているが、そのうち体力のないイオンやナツキがダウンするのは目に見えていた。

「ちぇ、師匠には追いつけなさそうだ。砂漠で寄り道なんかしなけりゃよかった」

デオ峠に差し掛かったときだった。
目の前に広がる長い山道をみてルークは舌打ちをして言い放つ。

アニスが怒ったように尋ねた。

「寄り道ってどういう意味……ですか?」

「寄り道は寄り道だろ。今はイオンがいなくても俺がいれば戦争は起きねーんだし」

その言葉にジェイドを除く全員が言葉を失った。
アニスは呆れて媚び得る事も忘れ、バカ?と漏らした。

「ルーク。今のは私も思いあがった発言だと思うわ」

「この平和は、お父様とマルクトの皇帝が導師に敬意を払っているから成り立っていますのよ」

ティアとナタリアがたしなめる。
イオンが俯き、いいえ、と首を振った。

「両国とも僕に敬意を持っている訳じゃない。"ユリアの残した預言"が欲しいだけです。本当は僕なんて必要ないんですよ」

イオンは沈んだ顔をして、弱弱しく笑った。
そんな事はないとガイがフォローしたがイオンは沈んだままだった。

話を切り替えるようにジェイドは口を開いた。

「なるほどなるほど。皆さん若いですね。じゃ、そろそろ行きましょう」

これ以上ここにいるとバカな発言に苛々しそうだった。
ナツキも何も言わなかったが呆れたように額を押さえている。
歩き出したジェイドを追うようにまた先に進み始めた。




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