上司の気持ち:02
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ケセドニアで一泊し、それでも目覚めぬナツキにジェイドは少し不安だった。 それでもここで時間を食っているわけにもいかない。 ナツキはガイに負ぶってもらい、マルクト領事館で用意してもらった船――キャツベルトに乗り込む。 キャツベルトでカイツールに向かい、そこからデオ山脈を越えればアクゼリュスは目前だ。 到着するより前にナツキが目覚めてくれればよいのだが……その兆しはない。
いつまでもガイに負ぶってもらっているわけにもいかない。 人のいいガイのことだから気にしないでくれ、と笑ってくれるだろうが。
カイツール軍港にキャツベルトが着いた。 キャツベルトの船室に寝かされていたナツキがうめき声を上げた。
「ぅう……た、いさ……」
薄く目を開き、ナツキはからからになった喉で必死に声を出す。
「水をどうぞ」
常備していた水をナツキに手渡した。 彼は無言で頭を下げ、水の入ったグラスを受け取り一気に飲み干した。 暫く水を飲んでいなかったのだ。さぞ喉が渇いているだろう。
「うぐ、がは、ごほっ……」
どうも急ぎすぎたせいで水が妙なところに入ったらしくナツキは咽ている。 呆れながらもジェイドは優しく背中を撫でてやった。 虚ろだったナツキの目がジェイドを捉えた。
「カーティス大佐……申し訳ございません」
「無事、ではないですが、目が覚めてよかったです」
俯き、謝罪をするナツキの頭にぽんと手を乗せた。 ガイとは違う柔らかな金髪が振動で揺れる。 ゆっくりとナツキが顔をあげ、驚いたように目を丸くしていた。
「大佐、どうしました……」
「おや、私が優しいと変ですか?」
ナツキがいいえ、と小さく頭を振る。 伏目がちになりナツキが小さく息を吐き出した。 そして、右手を左肩に当てた。顔が苦痛に歪められる。
「……俺、怪我してばかりで……邪魔なら置いていってください」
何を考えているかと思えば、そんな事だった。 少し気が緩んでいるのか一人称が"俺"になっている。 ジェイドは長い息を吐き出す。ぎくりとナツキの肩が跳ねた。
置いていけ、という割には置いていかれるのを怖がっている。
人の気持ちにはそこまで敏感ではなかったが、何となくわかった。
「邪魔など……私がいつ言いましたか?」
「いえ……ただ、これではまた剣を握れないので……」
「貴方の譜術は今の私を越える。旅には必要です」
"必要"だ、と言うとナツキは俯き、自分の手のひらを見つめた。 事実だった。封印術に掛かっているジェイドと、掛かっていないナツキ。 純粋に力比べをすればナツキの方が強い。勿論封印術さえなければ、ジェイドの方が強いけれど。
『まもなくカイツール軍港へ到着します』
ポーン、という音と共にアナウンスが響く。 ナツキと話している内に時間が過ぎたようだ。
まだ辛そうな表情を浮かべていたものの、ナツキはベッドから下りた。 軍人だからある程度の痛みには慣れているのだろう。 次の瞬間にはいつも通りの顔に戻っていた。
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