- ナノ -


上司の気持ち:01


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イオンと引き換えにザオ遺跡では六神将を見逃す事になった。
お前らなんて生き埋めに出来る、と笑うシンクは本気のようだ。

ラルゴとシンクは強かった。
何とか倒したものの、全員肩で息をしている。

(封印術さえ掛かっていなければ、よかったのですが……)

半分ほどは解けたもののまだまだ本来の力には戻っていない。
ジェイドは内心で舌打ちをしてから、メンバーが一人足りないことに気がついた。
辺りを見回してもやはりその影はない。

「そこの死霊使いは誰を探しているの?」

せせら笑いをしているのはシンクだ。
その言葉に他の仲間もナツキがいないことに気がついたようだ。

「ナツキを何処へやったのです!」

答えなさい!とナタリアが鋭い声でシンクに命令した。
ナタリアのきつい言葉にシンクは肩を竦め、顎でしゃくった。
シンクの指した場所を見る。

「ナツキ中佐!?」

ティアが息を呑み、駆け出した。
口の端から血を流し、真っ白い顔をしたナツキが倒れている。
頬には青あざが出来ており、とても痛々しい。

ナタリアも顔色を変えて、少し遅れながらもティアの後を追う。

いつもは飄々としているジェイドも流石に異常な程痛めつけられた部下の姿に焦りを覚えた。
哂っているシンクを一瞥し、ジェイドはナツキの元へ行く。

「怪我はどうですか、ティア」

「酷いです。内臓と……左肩がまた……」

ティアが左肩に触れるとナツキは顔を顰めて身じろぎした。
ナタリアが隣で治癒譜術をかけているが、あまり状態は良くない。

ナツキは難しい音素の調整を長時間続けたせいで調子がよくなかった。
そういう事もあってシンクに此処までやられてしまったのだろう。
だらしねー、なんて遠くで呟いている親善大使にはジェイドは呆れてしまった。

元々世間知らずの我侭だとは思っていたが、自分の部下をこき使われてジェイドはらしくなく怒っていた。
大人である手前、感情を表に出すことはしなかったが。

「ガイ、すいませんがナツキを運んでもらえますか?」

「ああ、いいよ」

粗方の応急処置が終わり、ガイはなるべく傷に響かないようにナツキを負ぶる。
そっと負ぶったつもりでもナツキの傷は痛むらしく、小さく呻いていた。

オアシスを経由しケセドニアに向かった。
怪我をしているナツキを長距離運ぶのは良くないが、オアシスでは簡易の休息所しかない。
そのため、仕方なくケセドニアまで移動したのだ。

ガイが前衛から抜け、前衛が自分一人になってしまったルークは道中何度もナツキに対しての愚痴を呟いていた。
アニスやガイは苦笑しながら曖昧に返事をしながらルークの愚痴を聞いていた。

ケセドニアについてすぐ、ルークが頭痛を訴えたためケセドニアで一泊する事になった。
彼の頭痛は7年前から時々起こっているとガイが教えてくれた。特に最近は頻繁になっているらしい。
前回の旅がルークに何らかの影響を与えたのかもしれない。

(いや……――)

宿にたどり着く一歩手前でルークが再び頭を抱えた。
そしてルークはふらふらとおぼつかない足取りでティアに近づくと剣を抜き突きつける。

「ちが……ちがう!……身体が勝手に……!!」

や、やめろ!ルークは叫ぶとふらりと倒れてしまった。
慌ててティアはルークに駆け寄り名を呼び、肩を揺するものの目覚めない。
ジェイドはその一部始終を目の当たりにし口元を押さえて考え込む。

先程のオアシスでルークはアッシュの声がする、と言っていた。
ルークは嘘をつかないだろう。だから恐らく事実。
そしてそっくりな二人。

どちらがレプリカか決めかねていたが、漸くわかった。

レプリカは――   で。

オリジナルは――……。

宿のベッドにルークとナツキを寝かせ、目覚めるのを待つ。
彼らが目覚めるのを待つ間にティア、アニスにはグミや食材の補充を頼んだ。

「……ナツキさん、目覚めないですの……」

ナツキの顔を覗き込み、眉を下げているのはミュウだ。
何だかんだいって優しいナツキにミュウは懐いていた。だからこそ、心配なのだろう。

買い物に行ったティアとアニスが丁度戻ってきたときだった。
ルークが身じろぎして瞼を持ち上げる。身体を起こし、寝ぼけ眼を擦った。

「どうです?まだ誰かに操られている感じはありますか?」

「いや……今は別に……」

ルークは小さく頭を振った。
そしてところで、と切り出す。

「イオンはどうするんだ?」

「もしご迷惑でなければ僕も連れて行ってくれませんか?」

イオンが六神将に連れ去られるのは避けたいところだ。
ならば、ルーク達と共に行動してもらうのがいいが、この旅の道のりは険しい。
身体の弱いイオンが着いてこれるのかは微妙だったが、全ての判断は親善大使殿に掛かっている。

ジェイドはちらりとルークを見た。

「勝手にしろよ」

なんとも無責任な発言に、ため息をつきたくなった。
彼には親善大使としての自覚はまったくない様だ。
ルークの言葉を聞き、イオンがよろしくお願いします、と頭を下げた。




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