再び旅立つ:05
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ザオ遺跡の最奥。 見覚えのある後姿が見えた。
鮮血のアッシュ、黒獅子ラルゴ、烈風のシンク、そして、イオンだ。 彼らはナツキたちの近づいてきた気配に振り返った。 ラルゴとシンクは前に立塞がる。
「導師イオンは儀式の真っ最中だ。大人しくしていてもらおう」
「そうは行くか!」
ルークが剣を抜く。 その様子を見たラルゴがにやりと口元をゆがめた。
「面白い。タルタロスでのへっぴり腰からどれだけ成長したか見せてもらおうか!」
ラルゴが大きな鎌のような武器を持ち上げた。 シンクも腰を屈め戦闘態勢に入る。
「六神将烈風のシンク……本気で行くよ」
「同じく黒獅子ラルゴ。いざ尋常に勝負!」
ばっと一斉に攻撃を仕掛けだす。 振りかぶられた大鎌をルークは跳ねて避け、着地と同時に更に距離をつめラルゴに切りかかる。 しかしラルゴも戦闘になれている、後退しルークの攻撃を避けた。
「行きますよ。炸裂する力よ、エナジーブラスト!」
「ぐぅ――……!」
避けた先を狙って発動したジェイドの譜術がラルゴに直撃する。 呻き怯んだラルゴに追い討ちをかけるようにガイが駆けて行く。
ナツキも何かしなければ、と詠唱に入る。 具合が悪いためいつもよりも譜術の威力は弱いかもしれないが何もしないよりはいいだろう。 上級は無理だと判断し、中級譜術を唱え始める。
「荒れ狂え、スプ――」
「させないよっ!」
ば、と目の前に現れたシンクにナツキは詠唱を中断し飛び下がり、レイピアを出現させる。
シンクは体術使いだ。 譜術で応戦するのは不利だ。詠唱をしている間に攻撃される。
「この前の肩の傷は治っちゃったの?」
素早い動きで間合いを詰められ、とん、と左肩を叩かれた。 ほぼ治ったはずの左肩がずくんと痛む。
苦い顔をしたナツキにシンクが愉しそうに口元をゆがめた。
レイピアを突き出しシンクを攻撃するも最低限の動きだけで避けられる。 身を屈めてレイピアの突きを避けたシンクが拳を突き出す。
「っ……――」
仰け反るようにして後退り、避ける。 押されているのは明らかだった。
「まだまだ行くよ!」
「っ負けるか!紅蓮突!」
炎を纏った三段突きを繰り出し、シンクを攻撃する。 シンクはぎりぎりのところで飛び退き、攻撃を避けたようだが少し掠った様だ。 彼の黒い服から出た紐のようなものが焼き切れた。
「っらぁ!エナジーブラスト!」
近づこうとしたシンクに詠唱破棄した炸裂譜術を唱える。 通常よりも大分威力の落ちていたが牽制には十分だった。 怯み、後ずさったシンクに間合いをつめ、再び紅蓮突を繰り出す。
「何度も同じ術に当たると思うなよ!」
「なっ!?――ぐぁっ!!!」
腹部に強い衝撃。 その衝撃に飛ばされ、瓦礫に背中を打ち付ける。 一瞬息が止まり、次の瞬間に入ってきた大量の酸素に咽る。
カツ――
近くに来た足音にまずいと思い身体を動かそうとするも疲れからかしっかり動かない。 助けを求めようにもシンクから逃げている間に仲間からは離されてしまったようだ。 それにレイピアも先程飛ばされたときに手放してしまった。
「はは、無様だね、あんた」
ガスッ――
横腹を蹴られ、仰向けに転がった。 頭上で金色の仮面がナツキを見下ろしている。 感情のわからないシンクは異様なほど不気味だった。
つうっと冷や汗が首筋を伝った。
「痛めつけるのっていいよね」
「――ぅあっ!」
完治していない左肩を思い切り踏みつけられた。 ごきりと左肩が嫌な音を立てた。激痛に目じりに涙が浮かぶ。 恐らくまた折れた。
「あんたのその顔、最高だよ」
襟元を引っ張られ、シンクの顔が近づく。 心臓が可笑しな音を立てて、呼吸も上手く出来ない。
掴まれた襟元を外そうと、シンクの腕に手をかけるが上手く力が入れられない。 左は折れて動かない、右は震えてしまっている。
「あは、怖いの?」
「……る、さい!黙れ!」
強がりだとナツキ自身も気付いていた。 それでも負けを認めるわけにはいかない。
「ふうん、まだそんな元気あるんだ」
「っつ……」
思い切り地面に叩きつけられ、息が詰まった。 その上肩の痛みに目の前がちかちかと点滅し、視界が悪くなってくる。
荒い呼吸を繰り返す。
痛みのせいで上手く頭が回らないため、打開策も思いつかない。
「痛いのは嫌?じゃあこれで終わらせてあげる」
シンクの掌が腹部に当てられる。 ぞわりと鳥肌が立つ感覚が身体中を襲う。
まずい、逃げなくては。と思うのに身体は動かない。
ぱぁ、と自分を中心に藤紫の譜陣が浮かび上がった。 その後のことは、もう、覚えていない。 にやりと笑う、シンクの口元だけはやけに鮮明に記憶に残っていた。
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