再び旅立つ:03
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非常口の梯子を下り外へ出た。 ぽつぽつと顔を打つのは空から降り注ぐ沢山の雫。 空を見上げていた顔を徐々に元の位置へと戻す。
「あ……」
奪われたはずのタルタロスが目の前にあった。 ルークとは違う赤がイオンを捕らえている。六神将のアッシュだ。 彼の髪は雨にぬれ、ルークと同じように前に下ろされている。
「イオンをかえせぇええええ!!!!」
ばっと飛び出したルークをアッシュは迎え撃つ。
キィン――
剣が鋭い音を立てた。 鍔迫り合いをして向かい合う彼らは、まるで、鏡に、映したかのようにそっくりだった。 目の色も鼻の高さも身長も何もかもが、同じ、だった。
ナツキは彼らを見つめ、目を細めた。
(レプリカ?ならばどちらが――……?)
「アッシュ!今はイオンが優先だ!」
アッシュを止めたのは同じく六神将であるシンクだ。 舌打ちをしてアッシュは剣を収めた。ここで俺達と戦うつもりはないようだ。
「いいご身分だな!ちゃらちゃら女引き連れやがって!」
馬鹿にするように鼻で笑い、アッシュとシンクはタルタロスに飛び乗りどこかへと逃げていった。
後に残されたのは呆然としているルークと、俺達。 ジェイドは何かを考え込んでいるようで険しい顔をしている。
結局ヴァンを使ったおとり作戦は無意味に終わってしまった。 イオンを探すため陸路を使う。 本当はバチカルに戻り船で行く案もあったが、ナタリアが連れ戻されるのは嫌だと強く反対した。
廃工場の次は砂漠を越えなければならない。 砂漠の中にあるオアシスを経由してケセドニアへ向かう。
一歩入るとさんさんと降り注ぐ太陽光が目に痛いし、暑い。
「……大佐、どうして私の近くに寄るのですか」
「いえいえ、お気になさらず」
「……」
砂漠に入るなりさっとナツキに近寄った大佐にため息をついた。 自分の周りの空気だけ音素調節をして気温を下げているのがばれたようだ。 かなり疲れるため広範囲は無理だが、人二人分ぐらいなら問題はない。
皆歩きなれない砂漠に参ってしまっているようだ。 特にナタリアは汗を流し、すっかり参っている。
「ナタリア、此方に来てください」
「……なんですの、ナツキ」
どうやらガミガミ言うような元気もなく、ナタリアはのろのろとナツキの隣へやってきた。 お手を、と言ってナタリアの右手を握る。 突然のナツキの行動にナタリアは驚いたようだったが、振り払うことはしなかった。
深呼吸をひとつ、第五音素を遠ざけて第三、第四音素を近づけて温度を下げる。 この調節が難しいが、うまくやれば砂漠でも過ごしやすい温度に出来る。
「まあ!どういう事ですの?」
温度が下がった事にナタリアは目を丸くする。
「これは第三音素と第四音素を調節して、ナタリアの周りの温度を下げているんです」
「そのような事が可能なのですね」
「音素の扱いが上手いからこそなせる技ですねぇ、私には出来ません」
ぴったりとナツキの背後にくっつくジェイドが少し怖い。と同時に邪魔だ。 死霊使いとまで言われたジェイドが出来ないといった事にナツキは少し驚いた。 ジェイドの事だからこんな事朝飯前だと思っていたのだがそうではないようだ。
手をつないだ訳はその方がナタリアの周りの音素を調整しやすいからだ。
「何だ、そんないい事出来るなら、俺らにもやれよ!」
反抗的な態度を取れば、ルークの機嫌を損ねることは明らかだった。 ナツキは暫く無言でルークの顔を見つめていたが、小さくため息をつく。
深呼吸を一回。 目を閉じ音素を感じ取り、仲間のいる範囲を調節する。
「よし、これで快適に進めるな!」
少し顔色を悪くしたナツキに気付かず、ルークは笑った。
オアシスに着く頃にはナツキの顔色は白を通り過ぎて青くなっていた。 暑さからではない汗が額を伝う。 道中はルークを除く皆がナツキを気遣い、戦闘中は下がらせてくれた。 そういう事もあり、何とかぎりぎり此処まで歩くことが出来た。
「……すいません、私は休ませてもらいます」
「何だ、もうへばったのか?だらしねー」
顔色を悪くしているナツキを見て、ルークは嘲笑う。 しかし、笑ったのはルークだけで他の仲間は心配そうにナツキを見つめている。
「あそこの酒場で休ませてもらいなさい……ティア、お願いできますか」
「はい。中佐、大丈夫ですか?」
ティアに支えられながら、ナツキは酒場に入った。 砂漠の中では建物の下に行くだけで随分と気温が変わる。
酒場の主人はナツキの顔色の悪さを見てすぐに椅子を用意してくれた。 長椅子を借り、ナツキはそこに寝転がる。
「中佐、水です」
「……ありがとう」
グラスに入った水を飲み込む。 しっかりと冷やされた水は乾いた身体を癒してくれる。
「これも使いな、兄ちゃん。ずいぶん参っているようだし」
酒場の主人が持ってきてくれたのは濡れたタオルだ。 砂漠では水は貴重品だというのに主人は気にするなと言ってナツキにタオルを押し付けた。 ありがたくタオルを受け取り目元に乗せる。
「では、私は大佐と合流してきます……あんまり、無理しないでください」
「あぁ……すまないな、ティア」
軽く頭を下げ、ティアは酒場から出て行った。 騒がしい酒場でもあまり気にならなかったのはナツキが疲れすぎているせいだろう。
目を閉じて、ナツキは意識を飛ばした。
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