- ナノ -


再び旅立つ:01


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早朝、ナツキとジェイドはインゴベルト陛下の御前に立っていた。
あの親書には和平条約の事だけではなくアクゼリュスの救援の事も書かれていたのだ。
アクゼリュスへのマルクトからの街道は瘴気で防がれており助けることが出来ない。
キムラスカ側からであればまだ道は防がれていないため救出が出来る。

キムラスカとマルクトが協力し合いアクゼリュスを救うことで和平はさらに強く結ばれるだろうと陛下は考えたようだ。

そして親善大使としてルークが選ばれた。
ルークはアクゼリュスに行くのを嫌がっていたが、ヴァンが捕らえられている事、
アクゼリュスに行くのであれば解放してくれる事を言われ渋々了承した。
なんとも強引なやり口だ。まるでヴァンが人質のような感じになってしまっている。

ヴァン謡将が関わると聞き訳がいいですね。とジェイドがからかっていた。

インゴベルト陛下はルークの決心を聞き、嬉しそうに何度も頷いた。
それからゆっくりとインゴベルト陛下はその訳を話し出した。
どうやら今回のアクゼリュス救援隊の事はユリアの第六譜石に詠まれていて、そこにはルークがアクゼリュスに行く事が記されている。
聖なる焔の光―ルーク―が、アクゼリュスに人々を連れて行く、と。
譜石にはそこまでしか書かれていなかった。先が気になるところであるが欠けていて詠めない。

「ルーク、お前は選ばれた若者なのだよ」

インゴベルト陛下の言葉にルークは驚きと喜びの混ざった奇妙な表情を浮かべた。
そして自分の手のひらを見つめ、小さく呟いた。

「……選ばれた、英雄か……へへ」

嬉しそうに笑ったルークにジェイドが意味ありげに見つめた。
インゴベルト陛下やその側近、ファブレ公爵が皆してルークを嵌めているような気がしてならない。
そんな事は知らずにへらへらと笑っているルークが可哀想だった。

「ところで、同行者は私達と誰になりましょう?」

「ローレライ教団からはティアとヴァンを同行させたいと存じます」

真剣な顔をして同行者を考える陛下達とは違いルークは興味なさそうにどうでもいいとはき捨てた。
ヴァン師匠がいれば、他は興味がないらしい。
ルークの様子に眉ひとつ動かすことなくファブレ公爵はガイを連れて行くといいと発言する。

これでメンバーはナツキ、ジェイド、ガイ、ティア、ヴァン。
戦力的に考えればルークを除いても十分だ。

「じゃあ俺、師匠に会ってくる!」

俺達には目もくれず、ばっと謁見の間を飛び出していったルークにナツキは小さくため息をついた。

「では我々は城の前でルークを待ちましょうか」

にっこりと笑ったジェイドにナツキは頷いた。


城の前では既にガイとティアが待ち構えていた。
壁に凭れ掛かり、腕を組むガイはとても様になっている。
ガイとは少し離れた場所でティアは空を見上げてぼんやりしている。

「よ、昨日ぶりだな」

「まぁ、また旅する事になったしよろしくな、ナツキ」

手を上げて挨拶をするとガイは此方に歩み寄り、ぽんぽんと肩を叩いた。
仲がいいですね、とジェイドが背後で笑っている。ティアも此方を見て微笑んでいた。

大分遅れてルークとヴァンが城から出てきた。
ルークは大好きなヴァンと一緒に居られるからか今までにないくらいの笑みを浮かべている。
ヴァンも満更でもないようで、にまりと笑っている。

どこかその笑みが貼り付けられたように見えるのはナツキの気のせいなのだと思いたい。

ジェイドの提案により、ヴァンはおとりで船に乗ることが決まった。
当然ながらルークはブーイングしたがヴァンに宥められ、不承不承に頷いた。
陸路で行く事が決まった俺達は街へと降りる。

「ルーク様ッ!」

大変大変、と甲高い声を上げて駆けて来る影がある――アニスだ。
アニスは息を切らしながらナツキたちの前で止まった。

「イオン様が行方不明なんですぅ!」

導師守護役のアニスは再び導師を見失ってしまったようだ。

話を聞くとサーカス団のような奴らとイオンが一緒に居たという。
サーカス団のような奴らは十中八九"漆黒の翼"の事だろう。彼らがイオンを街の外に連れ出したようだ。
こんな忙しいときに誘拐とはイオンのぼんやりも考え物だ。

追いかけようにも街の入り口に六神将であるシンクが待ち構えているという。

「不味いわ……六神将がいたら、私達が陸路を行くことも知られてしまう」

「……俺に案がある」

皆が頭を悩ませている中、ガイが小さく挙手した。

ガイに案内されたのは天空客車の前だった。
この天空客車は旧市街の工場跡へと繋がっているとガイは言う。

「あれ?」

「どうかしたのか?」

不思議そうに首を傾げたガイにルークが振り返った。

「いや、普段なら兵が立っている筈なんだが……」

そういえば、先程ガイは兵がいる筈なんだよなぁと呟いていたが見回す限り兵はいない。
まあいないなら逆にラッキーだ。何にも言わずに天空客車に乗れる。
さっさと天空客車に乗り込み、工場跡へと向かった。



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