コーラル城の戦い:01
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次の日、身支度を整え旅券を提示して国境を越える。 眠たそうに大あくびをしているのはルークだ。目じりに浮かんだ涙を手の甲で拭いとり、ルークは再びあくびをした。 無理もない。どうもルークは昨晩剣の稽古をしていたのだから。 つき合わされていたガイの方は夜更かしになれているのか、眠たそうな様子はない。 高々一日稽古したぐらいでそう上達するものではないだろうが、その努力は誉めてやろう。
国境を越えキムラスカ側へ行くと青とは正反対の赤い服に身を包んだキムラスカ兵が国境を警備している。 とくん、と心臓が嫌な音を立てた。手袋の中がじわりと湿るのを感じてナツキは深呼吸をした。 いくらキムラスカ人が憎いとはいえ任務なのだから斬り付けるような事は出来ない。 それに今は和平の使者、なおさら出来るわけがない。
「南に下れば軍港があるんですよ。行きましょう、ルーク様V」
軍港に向かうため海沿いを真っ直ぐ南下していく。 だだっ広い平野は見晴らしがよいため魔物が出てもすぐ対処が出来た。 それにこの辺りの魔物はそう強くはない。俺や大佐が出るまでもなかった。
そう時間も掛からず軍港に着いた。 軍港の入り口に入るなり不穏な音が聞こえてくる。どうも魔物の鳴き声のようだ。
「ナツキ」
「了解しました、大佐」
名前を呼ばれただけでナツキは理解し、素早くカイツールの軍港の中へ掛けていく。 ルークが何か言っていたような気がするが、無視しておく。
軍港内は酷い有様だった。 キムラスカ兵はライガに首を噛み千切られ殺されているし、ナツキたちが乗るはずであろう船からは煙が上がっている。 ライガ、ガルーダが敵を探して徘徊している。
「グランツ謡将、これは……!」
「クロフォード中佐か……アリエッタが私以外の者から何か指図されたようだ……」
すまない。謝罪され、ナツキは頭を振った。 アリエッタが命令を無視しているのはヴァンのせいではない。それは先日明らかにされたことだ。 ヴァンが謝るのはお門違いだ。
アリエッタは奇妙な人形を抱きしめて此方を見つめている。
「総長、ごめんなさい……アッシュに頼まれて」
「アッシュだと……」
アッシュ――鮮血のアッシュ。先日検問所でルークを襲った赤髪の男だ。 遅れてやってきたジェイド達がアリエッタを睨む。
「船を修理できる整備士さんはアリエッタが連れて行きます」
返して欲しければルークとイオンをコーラル城へ来い。 アリエッタはそう言うとフレスベルグ掴まり、恐らくコーラル城方面へと飛び去った。 アリエッタが去ると軍港を襲っていたライガやガルーダはどこかへと姿を消した。
「ヴァン謡将、船は?」
「すまん、全滅のようだ」
ガイの問いかけにヴァンは顔を顰めながら答えた。 港に並ぶ船全てがどこか煙を上げている。酷いものは装甲が壊れているものもある。 これでは今日出航するのは無理だろう。
「機関部の修理には専門家が必要だが、連れ去られた整備士以外となると訓練船の帰還を待つしかない」
「……それでは時間が掛かってしまいますよ、大佐」
「困りましたね……ところでアリエッタの言っていた"コーラル城"というのは?」
「確かファブレ公爵の別荘だよ」
ジェイドは眉を下げため息をつく。 此方としては急いでいるのに、とんだ足止めだ。流石に船を壊されては先へは進めない。 六神将もそれを知ってアリエッタに船を襲わせたのだろうが。
「覚えてねぇなぁ……」
どうやらコーラル城は誘拐されたルークが発見された場所でもあるらしい。 覚えていないと言うルークにお前なぁ、とガイが呆れた顔をした。
「もしかしたら、行けば思い出すかな」
「行く必要はなかろう。訓練船の帰港を待ちなさい。アリエッタのことは私が処理する」
声を弾ませたルークをすかさずヴァンが止める。 しかし、ヴァンの言葉はアリエッタの要求を無視するもの。下手をすれば整備士の命はないかもしれない。 それを気にしたイオンがヴァンに発言するが――
「今は戦争を回避する方が重要なのでは?」
正論を言われて、イオンは押し黙る。 整備士の命と戦争。親書は急を要するものといえど、目の前の助けれる命を助けないのはどうなのだろうと思う。
「ルーク。イオン様を連れて国境へ戻ってくれ。此処には簡単な休息施設しかないのでな」
私はここに残り、アリエッタ討伐に向かう。そこまで言われてはヴァンの言うとおりにするしかない。 ジェイドをチラッと見たが、特に彼は足止めに気にしている様子はない。 回れ右をして軍港を出ようとしたときだった。
「お待ちください、導師イオン!」
イオンを呼ぶ鋭い声に一向振り返った。 若い2人組みの男が此方へかけてきた。どうやらイオンに用があるらしい。 アニスがイオンの前に出て用件を尋ねる。
「妖獣のアリエッタに攫われたのは我らの隊長です!」
「お願いです!どうか導師様のお力で隊長を助けてください!」
二人に頭を下げられて、イオンは頷いた。
「よろしいのですか?」
「アリエッタは僕に来るよう言っていたのです」
ルークを除く全員がコーラル城に行くことを渋らなかった。 最終ルークも若い男に頭を下げられて渋々頷いた。
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