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国境を越えて:02


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カイツールへ入ると青い軍服を着たマルクト軍がたくさん駐在していた。
彼らは軍服を着ている俺と大佐が目の前を通ると姿勢をただし敬礼をする。
何だか前方が騒がしい、視線をそちらに移すと黒髪のツインテールの少女が国境を守る兵ともめている。
――アニスだ。アニスは俺達が背後にいることも気付いていないようだ。

「証明書も旅券も無くしちゃったんですぅ。通してください、お願いしますぅ」

甘ったるい、媚びる様な猫なで声だ。
しかし。

「お通しできません」

兵は淡々とマニュアルどおりの言葉をアニスに告げる。
その途端アニスは膨れっ面をし、回れ右をしてそしてどすのきいた声で静かに呟いた。

「……月夜ばかりと思うなよ」

それがどういう意味なのか良く分からないが、まあ要するに背後に気をつけろよという感じだろうか。
こちらに向かって歩いてきたアニスににこにことイオンが声をかけた。

「アニス、ルークに聞こえちゃいますよ」

「!……きゃわ〜んVアニスの王子様V」

ルークの姿を認めるとアニスは先ほどの声色は何処へやら、甘ったるい言葉遣いで擦り寄ってきた。
その変わりように呆れると同時に感心する。あまり、誉められることではないけれど。
背後でガイの"女ってこえー"という小さな呟きに俺は思わず笑ってしまった。

「心配したぜ、魔物と戦ってタルタロスから墜落したんだろ?」

「そうなんです……アニス、ちょっと怖かった……てへへ」

「そうですよね"ヤローてめーぶっ殺す!"って悲鳴を上げてましたものね」

……それは、悲鳴なのだろうか。
イオンの言葉にナツキは苦笑と共に首をかしげた。

「大佐、旅券はどうします?我々はともかくルークとティアさんの旅券はないですよね」

「ここで死ぬ奴にそんなものはいらねぇよ!」

俺が大佐に声をかけたときだった、頭上から髪をなびかせて誰かがルークに切りかかってきた。
あまりにも突然で誰もルークを庇えない。

「うわぁっ!?」

どしんと仰け反りながら、ルークは尻餅をついた。
初撃は避けれたものの相手は再び切りかかろうと銀に煌く剣を振り上げた。

――キィン

ルークの間に誰かが入り込み、アッシュの攻撃を防ぐ。

「退け、アッシュ!お前にこんな命令を下した覚えはない。退け!」

その誰かは神託の盾騎士団所属のヴァン・グランツ謡将だ。
ヴァンはアッシュに退くよう命令すると、
舌打ちをひとつしアッシュは剣を鞘へ収めルークをひと睨みしてから検問所の塀へと跳び乗りどこかへと走り去っていった。

「ルーク、今の避け方は無様だったな」

「ちぇっ、あっていきなりそれかよ……」

ルークは少し膨れっ面をしたが、声には今までにない嬉しさが含まれている。

「ヴァン!」

ティアが殺気を放ち、小型ナイフを構えた。
何故、彼女が実の兄であるヴァンを殺そうとするのか深くは知らない。
ヴァンは冷静に武器を向けられてもうろたえず、冷静に声をかけた。

「ティア、武器を収めなさい。お前は何か勘違いしているのだ」

暫くティアは考え込むように俯き、やがて武器を収めた。

ヴァンの話を聞くために宿屋へ向かった。
検問所の前で話し続けるわけにもいかなかったからだ。
ルークはヴァンに逢ってからはすっかり彼に付きっ切りだ。
事あるごとに"師匠"と呼び、今回の旅を事細かに話しているようだった。

検問所のすぐ傍にある宿屋に入る。
俺達が入ってきたのを見てヴァンは立ち上がり、ティアに尋ねた。

「頭は冷えたか?」

「……何故兄さんは戦争を回避しようとなさるイオン様の邪魔をするの?」

ヴァンの問いには答えず、ティアは質問を投げかける。
まだ、ヴァンを信用していないのかティアのヴァンを見る目は冷たい。
そんなティアにヴァンは緩く首を振り、呆れたようにまだそんな事を言っているのか、とため息をついた。

「でも六神将がイオン様を誘拐しようと……」

確かにヴァンの部下である六神将はイオンを一度誘拐していた。

「落ち着けティア。そもそも私は何故イオン様がここにいるのかすら知らないのだぞ。
 教団からは、イオン様がダアトの教会から姿を消したとしか聞いていない」

「すいません、ヴァン。僕の独断です」

イオンがヴァンに謝罪する。しかし、イオンを実際に教会から連れ出したのはマルクト軍だ。
たまたまイオンとマルクトの利害が一致したからこそ、連れ出した。

「こうなった経緯をご説明いただきたい」

「……それについては我々マルクトが関与しますので、私が説明いたします」

一歩前に出てナツキは言う。背後にいるジェイドにもアイコンタクトをとる。
ジェイドが小さく頷いたのを見てからナツキは口を開いた。

簡単簡潔に話をすると、ヴァンは話は分かった、と小さく頷いた。

「六神将は私の部下だが、彼らは大詠師派でもある」

モースに命令されたのだろう。とヴァンは顎に手を当てながら言った。
謡将よりも大詠師の方が位は上、ヴァンを態々介さずともモースが命令することは十二分にありえる。
なるほどな。とガイが納得したように呟いた。

「先ほどのアッシュだが……ヤツが動いていることは私も知らなかった」

「じゃあ兄さんは無関係だっていうの?」

「いや、部下の動きを把握していなかったという点では無関係ではないな……」

だが私は大詠師派ではない。ヴァンは頭を振り、身の潔白をティアに告げる。
もうティアの目に殺意はない。先程ほど疑惑はなくなったようだが、まだ疑うような目はしている。

途中ティアの任務の話が出たが、ティアは機密事項だ、と言いはっきりと答えはしなかった。
第七譜石かとヴァンが尋ねたがやはりティアは答えなかった。逆に言えばそれが、答えだったのかもしれない。
場の空気を乱すようにルークが第七譜石とはなんだ、と尋ねてきた。
常識中の常識を知らぬルークにこの場に居た誰もが閉口する。
急に黙り込んだ仲間にルークはなんだよ、と不機嫌そうな顔をした。

箱入り、というのも度が過ぎるとただの馬鹿だ。

「始祖ユリアが2000年前に詠んだ預言よ。世界の未来史が書かれているの」

「あまりにも長大な預言なので、それが記された譜石も山ほどの大きさのものが七つになったんですよ。それが様々な影響で破壊され、一部は空に見える譜石帯となり一部は地表に落ちました」

「地表に落ちた譜石は、マルクトとキムラスカで奪い合いになってこれが戦争の発端になったんですよ。譜石があれば世界の未来を知ることが出来るから」

ティアに付け足すようにイオン、アニスが説明する。
ふぅん、と興味なさそうにルークは頷きながらも、第七譜石が何であるかをなんとか理解したらしかった。

「第七譜石はユリアが預言を詠んだあと、自分で隠したらしいですね」

だから、皆第七譜石を探しているんですよ、とルークに教えた。
脱線した話を戻すようにヴァンが咳払いをした。

「とにかく私はモース殿とは関係ない」

ヴァンは話を切り上げるように言うとナツキたちに旅券を渡す。
ルークとティア、アニスの分の旅券だ。超振動で飛んできてしまった彼らは旅券を持っていない。
アニスはなくしてしまっただけようだが。
これで漸く全員が検問所を通ることが出来る。

今日は此処で休むといい、というヴァンの言葉どおり俺達は宿で一泊する事になった。
一方でヴァンは先に検問所を越え船の手配をしてくれるらしい。ありがたい事だ。

徐々にキムラスカに近づいてきている。それと同時に憎しみも膨れてきているような気がした。




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