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タルタロス襲撃:07


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早朝に出発しセントビナーへ向かう。
一時間ほど歩いたところでようようセントビナーの城砦が見えてきた。
セントビナーは城砦都市である。高い砦に街が囲まれており魔物が進入してくる心配も少ない。
そのためエンゲーブよりも桁違いに人が多い。

さあ街に入ろうと城門を見ると、白い甲冑が立っている。
神託の盾兵だ。どうやら俺達が来るだろうと先回りされていたようだ。

「大佐、どうします?このままではセントビナーへ入れません」

城門をこそこそと眺めながらナツキはジェイドに尋ねた。
ふむ、とジェイドが考え込んでいると馬車が目の前を通り過ぎていく。
馬車はそのままセントビナーの城門へ向かった。

遠くからかすかに声が聞こえてくる。

「エンゲーブのものです……食材を――」

「……よし、わかった」

「後からもう一台……――」

観察していたが、神託の盾兵はどうやら荷台まではきちんとチェックしていない。
チェックしたところで食べ物だと思っているのだろうか。

「あれは使えますね」

決まったところでもう一台来るであろう馬車を道の真ん中で待つ。

そう時間が経たぬうちにガタガタと荷台を揺らしながら馬車がやってきた。

「そこの馬車とまれっ」

ルークが馬車の前に飛び出すと、荷台を引いていた4匹の魔物が慌てて足を止めた。
馬車の主を見るとローズ夫人だ。これは話を聞いてもらえそうだ。

「おばさん、わりいけど馬車にかくまってくれねぇか?」

どうも人に物を頼むような口調ではないルークにため息をついた。
もう少し敬語というものを使ってもらいたいものだ。
……世間知らずの我儘坊ちゃんには無理な話か……。

「イオン様を狙う不逞の輩がセントビナーの入り口を見張っているのです。ローズ夫人、どうかご協力頂きたい」

「おやおや、こんなことが起きるとは生誕祭の預言にも詠まれなかったけどねえ」

ローズ夫人は口元に手を当ててくすくすと笑った。

「いいさ、泥棒騒ぎで迷惑をかけたからね。お乗りよ」

夫人の言葉に甘え、俺達は荷台に乗り息を潜めた。

ガタガタと揺れていた荷台の動きが止まる。セントビナーの門に着いたのだ。
更に息を潜め、俺は外の気配を探る。

「よし、通って良いぞ」

先ほど見ていたときと同じように大したチェックもなく門を通過できた。
全員がほっと息をついたのが良く分かった。

街の真ん中まで来て俺達は漸く馬車から降りた。
レンガ造りの街はエンゲーブとはまったく違う。
街の広場の真ん中には花壇があり色とりどりの花が咲き誇っている。

夫人と別れ、マルクト軍の基地へと向かう。

「黙らんか!」

入るなり部屋に響いた怒声に俺は目を丸くした。
ジェイドの影からずれ、俺は部屋の中を確認する。
床に届きそうなほどの白いひげ生やしたマクガヴァン元帥と鋭い目をしたマクガヴァン将軍だ。
なんやら二人の間には火花が散っており、険悪なムードだ。

「お取り込み中失礼します」

ジェイドは険悪な雰囲気など気にもせず、彼らに声をかけた。

「死霊使いジェイド……」

「おお!ジェイド坊やか!」

二人の反応は真逆だった。
元帥は嬉しそうに声をあげ、将軍は厳しい目でジェイドを睨んだ。
マルクト軍人であるナツキも挨拶をしなければ、とジェイドの隣に並んだ。

「お久しぶりです、元帥」

「おお!ナツキも元気じゃったか?」

頭を下げ、元帥に挨拶をする。

「ジェイド坊やもナツキもそろそろ昇進を受け入れたらどうかね、本当ならその若さで大将や少将ぐらいになっているだろうに」

「どうでしょう、大佐で十分身に余ると思っていますが」

「私もまだまだ未熟ですので……」

苦笑交じりに元帥に返す。
元帥は少し不満そうな顔をしていた。

俺の背後でジェイドとナツキって偉かったのか?とルークがガイに問いかけていた。

「カーティス大佐、御用向きは?」

置き去りにされていたマクガヴァン将軍が咳払いをした。

「あぁ失礼。神託の盾の導師守護役から手紙が届いていませんか?」

「あれですか。……失礼ながら、念のため開封して中を確認させてもらいましたよ」

将軍から手紙を受け取り、ジェイドへと渡す。
茶色い軍用の封筒に入れられた手紙を開けジェイドはさらっと流し読みする。
その目が少々呆れ混じりなのは何故なのだろう。

「どうやら半分はあなた宛のようです。どうぞ」

さっさと手紙を読み終えたジェイドは背後に居たルークに手渡した。
ルークは手紙を受け取り、文字を目で追う。

『親愛なるジェイド大佐へV
 すっごく怖い思いをしたけど
 何とかたどり着きました☆
 例の大事なものは
 ちゃんと持っていま〜す。
 誉めて誉めて♪
 もうすぐ神託の盾がセントビナーを
 封鎖するそうなので
 先に第二地点へ向かいますねV

 アニスの大好きな
 (恥ずかしい〜☆ 告っちゃったよぅV)
 ルーク様V はご無事ですか?
 すごーく心配しています。
 早くルーク様V に逢いたいです☆
 ついでにイオン様のこともよろしく。
 それではまた☆
 アニスより』

記号を大量に使った彼女の文面はなんともいえない。
親書がメインなのは分かる。が、何故かイオンがついで扱いされている。
導師守護役としてそれはどうなのだろう。

「第二地点はカイツールでしたね」

「カイツール?」

「ここから南西に進みフーブラス川を渡った先にある街ですよ」

知らないであろうルークに簡単に説明する。
ふぅんとルークは相槌を打つ。
まあ、街の行き方説明されてもぴんと来ないのも当然か。

基地を後にし、各自自由行動をとることにした。
俺は食材とグミとボトルの補充をするために露店に向かう。
アップルグミとオレンジグミを中心に購入する。
回復役が俺とティア、二人いるお陰でアップルグミはいうほど消費していない。
あって困るものでもないので、ある程度は買っておく。

「よう、えーっとナツキ、だっけ?」

「はい。あなたはガイ、さんであっていますか?」

会計中に声を掛けられ振り返るとガイがいた。
どうやらひとりのようだ。

彼は俺の買い物を覗き込み、まじめだなと苦笑した。

「俺のことは呼び捨てでいいぜ?それに敬語とか堅苦しくて息が詰まるだろ?」

「……じゃあ遠慮なく使わせてもらうよ、ガイ」

今しがた購入したグミを腰のポーチへと仕舞い、ガイへと向き直った。
ガイは人のよさそうな笑みを浮かべ、そっちの方があってるなと言った。

「一応これも任務だから、敬語使っているんだが……面倒くさくて……」

「そ、そうか……」

「ところで、ガイ。ソイルの木には上ったか?」

いいや、とガイは首を横に振った。
今から行くところだから一緒に行こうと言うと、ガイは笑顔で頷いてくれた。
こんないい男が女性恐怖症など誰が思うだろうか。

梯子を上り、ソイルの木の太い枝へ足を下ろした。
城砦よりも高いそこからは遥か遠くまで見下ろすことができた。
大分日も落ちかかっており、西の空は赤色に染まっている。

「ホドも……見えたらいいのに……」

「……え?」

小さな小さな声で淡い夢を呟いた。
隣に居たガイには聞こえなかったらしく、不思議そうに聞き返してきた。
それには答えず、俺は目を細めて赤を見つめていた。

六神将を含む神託の盾兵がいなくなるまでかなりの時間がかかったためセントビナーで一泊することになった。
イオンの体調も芳しくなかったためどちらにせよここで一泊するはめになっただろう。

宿屋のベッドに腰掛、濡れた髪をタオルで拭う。

「へぇ、意外と髪長いんだな」

横にいたガイが腰まである長い髪を見ながら言った。
いつもはポニーテールにしているから正確な長さがわからなかったんだろう。

触ってもいいか、とガイが訪ねてくるので頷いた。

「――……っ」

耳元に指が触れ、ぎくっとして俺は肩を揺らした。
男の髪など触っても面白くないだろうに。

ルークの隣に居たミュウがぴょこぴょこと跳ねながら、ナツキの膝に乗ってきた。

「ナツキさん、女の人見たいですのー!」

俺を見上げながら、ミュウは見事な爆弾発言をしてくれた。
髪を触っていたガイの指先がかたかたと痙攣を始める。

「ひぃっ!?」

ばっと跳びじさったガイを半目で見る。

「いや、何で逃げるんだよ」

「わ、わるい……ミュウが妙な事言うから、ナツキが女に見えてきて……」

ナツキは呆れたようにため息をつき、タオルをベッド脇にあるチェストの上に置いた。
相変わらず膝の上にいるミュウの頭を手で撫でてやる。
目を細め気持ちよさそうにミュウは鳴き声を上げた。

「明日も早いんだ、早く寝ろよ、ガイ」

ミュウを両手で抱き上げ、床へと下ろしナツキはガイに声をかけてから、毛布を被り目を閉じた。




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