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タルタロス襲撃:05


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ジェイドの言う"イイモノ"というのは、要するに爆薬だった。
貨物を動かした先にある、木箱一杯に詰められた爆薬を爆破させれば凄い威力になりそうだ。
ジェイドは今までにないいい笑顔を浮かべている。

「ミュウ、出番ですよ」

楽しげにジェイドは言う。
それはもう鼻歌でも歌いそうなくらい楽しそうな声色だった。

出番といわれたミュウは嬉々として爆薬に向けて火を噴いた。

ドォオオオン――

タルタロスを揺るがすくらい大きな爆音がして、タルタロスの頑丈な壁に穴が開く。
そこから外へ出て、左舷昇降口へと向かった。

ガルーダやライガが甲板をうろついていたが、神託の盾兵の姿は見えなかった。
復旧作業に追われて、ぶらぶらしている暇はないのだろう。

左舷昇降口の手前でイオンと神託の盾兵が来るのを待つ。

「どうやら間に合いましたね。現れたようです」

昇降口についている小窓から外をうかがうと神託の盾兵ひとりとリグレットとイオンがいる。
彼らは止まっているタルタロスをみて不審そうな顔をした。

「このタイミングでは、詠唱が間に合いません。譜術は使えないものと考えてください」

「どっちにしたって封印術のせいでセコイ譜術しか使えないんだろ」

「えっ!?封印術!?」

ルークの封印術、という言葉に思わず俺は声を上げた。
まさかジェイドがそんなものを掛けられているとは思いもしなかった。
どうやら俺がジェイドと別行動している間に掛けられてしまったようだ。
部下として上司のピンチを助けられなかったことが悔しい。

大きな声を上げた俺に、ジェイドが静かにと咎める。
慌てて声を小さくして謝罪する。

階段が下ろされる音がして、全員が顔を引き締める。
ルークがミュウを片手で掴み上げ胸の位置に持ち上げて扉の前で待機する。

カン、カン――

階段を上る音がだんだんと近づいてきて、扉の前で止まった。
扉が開いたそのタイミングでルークが声を上げた。

「おらぁ!火ぃだせぇ!」

ルークの声に応じてミュウが神託の盾兵の顔に向けて火を吐き出した。
まさかこのタイミングで火を吐かれるとは思いもしない神託の盾兵は当たった衝撃に仰け反り階段を転がり落ちる。

ナツキはばっと左舷昇降口から飛び出し、下方にいるリグレットの背後に着地した。

「なにっ!?」

リグレットはナツキに気付き振り返ったが遅い。
既にナツキは地を蹴り、リグレットに距離を詰めていた。
ばっと腕を掴み後ろに回して動かせないように固定し、首筋にレイピアを添えた。

「武器を捨てろ」

「……ふん、先程とは違い、中々やるな……」

渋々リグレットは譜銃を地面に落とす。
流石、ナツキですね。とジェイドがニコニコ笑う。

「ティア!譜歌を!」

ジェイドがタルタロスの昇降機の近くにいるティアに声をかけた。
ティアがロッドを構え、此方を見た。

表情が驚きに染まる。

「リグレット教官!」

名を呼んだ瞬間、唐突にティアが吹き飛ばされる。
昇降機にライガがいる。一瞬あっけに取られた俺は少し力が緩んだらしい。

掴んでいた腕がするりと抜け、腹部に衝撃が走る。

「うぐっ!?クソッ!」

ばっとリグレットは地面に落ちていた譜銃を取り、素早く距離をとるとイオンを背後にして牽制射撃をした。
気がつくとルークが倒したはずの神託の盾兵も起き上がりルークの首元に剣を突きつけていた。

「ぐるる……」

膝をついた俺の近くで、ライガが牙を剥いている。
少しでも動けば噛み付きそうなそれに俺は冷や汗をかいた。

形勢は一気に逆転した。

「彼らを拘束して……」

リグレットが続きを言おうとしたときだった。
彼女の頭上から金髪の男が飛び降りてきて、あっという間にイオンを担いで此方へきた。
第三者の乱入に内心驚いたが敵ではないようだ。
俺は素早く身体を起こしライガの顎を思い切り蹴り上げ、後ろに下がった。

金髪の男はリグレットの銃弾をいとも容易く剣で弾き、そしてすくりと立ち上がって言い放った。

「ガイ様、華麗に参上」

なんとも恥ずかしい、台詞を。
全員の目が金髪の男――ガイにいっている間にジェイドは素早くアリエッタを拘束し、その首元に槍を突きつけた。

「さあ、もう一度武器を捨ててタルタロスの中へ戻ってもらいましょうか」

リグレットと神託の盾兵は勝ち目がないとわかったのか、
何も言わずに武器を捨てさっさと昇降機を上りタルタロスへ入っていった。
次はあなたです、とジェイドが抱え込んでいたアリエッタに声をかける。
が、アリエッタはイオンを見やり、小さな声であの、あの……と何か言おうとしている。

イオンは困ったような顔をして、頭を振った。

「言うことを聞いてください。アリエッタ」

暫くアリエッタは黙り込み動こうともしなかったが、やがてゆっくりとライガと共にタルタロスの中へと消えた。
その途中何度も何度もイオンを振り返っていた。

神託の盾兵と六神将がタルタロス内に消えたのを確認してジェイドは口を開いた。

「暫くは全ての昇降口が開かない筈です」

「ふぅ……助かった……ガイ!良く来てくれたな!」

ガイを見やり、ルークは嬉しそうに声を上げた。
どうやら彼はルークにとても気に入られているらしい。
金髪の男をまじまじとナツキは眺めた。

彼は人のよさそうな笑みを浮かべて、ルークと言葉を交わしている。

「アニスはどうしました?」

「それが……敵に奪われた親書を取り返そうとして、魔物に船窓から……」

イオンの言葉を聞き、ふむ、とジェイドは顎に手を当てた。

「セントビナーへ向かいましょう。アニスとの合流先です」

不思議そうな顔をしてルークが鸚鵡返しに尋ねると、イオンが此処から東南にある街ですよと説明した。
じゃあそこまで逃げればいいのか。とルークは頷いた。

「そちらさんの部下は?まだこの陸艦に残ってるんだろ」

ガイの言葉に俺は俯いた。
恐らくもう、彼らはいないだろう。
俺が船橋から出たときには既に半数以上が魔物と神託の盾兵に殺されてしまっていた。

守れなかったという悔しさに手を握り締めた。

「……何人、艦に乗ってたんだ?」

「今回の任務は極秘でしたから、常時の半数――百四十名ほどですね」

「百人以上が殺されたってことか……」

ジェイドの言葉に全員が暗い表情になる。
場を仕切りなおすように、ティアが行きましょうと告げた。




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