タルタロス襲撃:04
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「――、 、しっかりしなさい!」
誰かが俺の肩を揺すっている。
「ナツキ、しっかりしなさい」
やがてそれが上司であるジェイドの声だと気付き、ナツキははっとして飛び起きた。
「か、カーティス大佐申し訳ありませんっ――っつぅ……」
身に染み付いた上下関係というもののせいか、反射的に謝罪する。 その瞬間に筋肉が収縮したせいか腹部に鈍痛が走った。
「漸く目覚めましたか……」
痛みのため、目じりに薄く涙を浮かべながらもナツキは小さく頷いた。 どうやらここはタルタロスの船室のようだ。 神託の盾騎士団に捕らえられてしまったのだろう。 兵が寝る簡易式の硬いベッドに腰掛け、ナツキは周りを見回した。
隣のベッドにはルークが眠っており、その脇にティアが屈み込んでルークの様子を心配そうに見つめている。 なるほど揃いも揃って捕らわれてしまったわけか。
「後はルークが目覚めるのを待つだけですねぇ」
ジェイドは心底面倒そうにため息混じりに言った。 それにしても、とつけたし、ジェイドは俺を赤い眼で見下ろした。
「ナツキまで捕まっているとはね」
「う……も、申し訳ございません、カーティス大佐」
なんとなく責められているような気がして、俯き謝罪する。 いいえーなんて笑っているけれども、笑顔が逆に怖い。
「怪我は大丈夫ですか?クロフォード中佐」
「え?あ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
ルークをみていたティアが振り返り、尋ねてきた。 怪我が治っているからティアが譜術で治してくれたんだろう。 この面子で治癒譜術を使えるのは俺とティアだけしかいない。
「……ぅ、俺……」
漸くルークは目覚めたようだ。 身体を起こし、ルークは頭を抱えた。
独り言のように呟くと、苦渋に満ちた表情を浮かべた。
「そうだ、俺……人を……」
――殺した。
ルークは掠れた声で言った。 その台詞でナツキはルークが人を斬ってしまったんだと気付いた。 人を斬るというのは中々勇気がいるものだろう。……俺はもう、慣れてしまったけれど。
両手で顔を覆い、ルークは絶望していた。
「目が覚めたなら、そろそろ行きますよ。タルタロスを奪還しなければ……」
ジェイドの言葉にルークが焦ったように言葉を発する。
「そんな事したら、また戦いになるぞ!」
「それが、どうしたの?」
不思議そうにティアが聞き返す。
「また人を殺しちまうかもしれねぇって言ってんだよ」
ルークの発言はどうもこの面子の中では浮いていた。 殺らなければ殺られる。そう言ったティアにルークは声を荒げた。
「な……何言ってんだ……人の命をなんだと思って……」
確かに人の命は大切だ。そして、重い。 彼の言葉は"正義"だけれど、戦場に"正義"は必要ない。 ただ、生か死か。やるかやられるか。その二択しかない。 人を殺したくないというルークの発言はこの場では酷く滑稽だった。
「……此処は戦場なんだよ!戦いたくねぇなら下がってろ!」
「!?……だ、誰も戦いたくねぇなんて言ってねぇだろ!」
語気を荒げた俺にルークはびくつきながらも反論する。 ただ……人を殺したくないだけだ。小さな声でルークは付け足した。 この状況でまだ殺したくないというルークにナツキは呆れた。
「人を殺したくないなら下がってろ。戦えない奴は戦場にいらない」
「……な、なるべく戦わないようにしようって言ってるだけだ。……俺だって、死にたくない」
ナツキが睨むとルークはうろたえながらも答えた。 答えはなんとも自信のないものではあったが……。
眼鏡のブリッジをくいっと指先で上げながら、ジェイドがルークを見た。
「結局戦うんですね?戦力に数えますよ」
「戦うって言ってんだろ!」
「結構」
強がっているような雰囲気ではあったが、ジェイドは何も言わなかった。
全員の意思が決まったところで、ジェイドは出入り口を塞ぐ譜術の格子をいとも容易く解いた。 そして、傍にあった通信機に向かってりんとした声で言い放った。
「死霊使いの名によって命じる。作戦名『骸狩り』始動せよ」
タルタロスにその言葉が響き渡った瞬間、ガゴンと音がしてタルタロスが緊急停止する。 電気系統も一気に消えた。
"骸狩り"それはタルタロスの非常停止機構だ。 非常停止した場合は左舷昇降口しか開かなくなる。
ジェイドが何も知らないルークとティアに簡単に説明していた。
「武器を探しましょう。近くにある筈です」
説明が終わったタイミングを見計らい俺は提案を口にする。 ジェイドは小さく頷き、歩き出した。
船室はたくさんあったが、二部屋目くらいで見つけることができた。
コンタミネーションで、レイピアを腕に収納する。 ルークがその現象を不思議そうに見つめていた。
「で、この後はどうするんですか、大佐」
「"イイモノ"を取りに行きますよ」
ルークの視線を気付かぬ振りして、ナツキはジェイドに尋ねた。 するとジェイドは含み笑いを浮かべてそう言った。 明らかに何か悪いことを考えている様子のジェイドにナツキは苦笑するしかなかった。
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