- ナノ -


タルタロス襲撃:03


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船橋で暫くぼんやりと外の景色を見つめていた。
キムラスカまではまだまだ掛かりそうだ。

「クロフォード中佐!前方にグリフィンの群れを発見!此方へ向かってきます!」

「何!?警報を鳴らせ、戦闘準備をしろ!」

ナツキの頭は急速にはっきりとし始めた。
すぐさま部下に命令を出した。

――ファンファンファン!

けたたましいサイレンが鳴り響いた。

「グ、グリフィンの群れからライガがっ!」

船橋の外にいた部下が駆け込んできた。その顔は真っ青だ。
倒れ込む部下を受け止めるとグローブがぬるりと滑った。
はっとしてその部下を良く見ると腹部から血が滴っている。
苦い顔をしてナツキはその部下を寝かせ、治癒譜術を唱える。

『船橋!どうした!』

艦内通信からジェイドの声が聞こえた。
部下の怪我がある程度治ったのを確認してから、ナツキは通信機に飛びついた。

ガガガガガ――

大きな音を立て、突然タルタロスが操行を停止する。

「機関部が――!」

船橋にいた部下の一人が叫んだ。
ナツキはそれを横目で見やり、通信の先にいるであろうジェイドに叫ぶように言う。

「グリフィンの群れからライガが降下!機関部が損傷!」

「クロフォード中佐ッ!外から敵が……」

振り返ると同時にライガが鋭い爪を此方に向けて飛び掛ってきた。
反射的に屈みそれを避け、レイピアで腹部を貫く。

『船橋!応答せよ、船橋!』

「大佐ッ!」

ナツキが応答するがライガが飛び掛ってきたときに壊れてしまったらしい。
反応がない。舌打ちをして、タルタロスに入り込んできた敵を殲滅することに集中した。

グリフィンには神託の盾騎士団の兵士も乗っていたようだ。
白を基調とした鎧の兵がマルクト兵と対峙している。
戦況は圧倒的にこちらの不利だった。
不意打ちを喰らって兵士の装備が完璧ではないことと、内密な任務のため同行した兵士は通常よりも少ない。

折り重なるように倒れているマルクト兵の亡骸を見やり舌打ちする。
                
船橋前の甲板は惨かった。そう、あの日(・・・)を思い出しそうになるくらいに。
レイピアを強く握り締め、飛び掛ってくるライガを切り捨てた。
突きに特化しているとはいえ、切ることがまったく出来ない訳ではない。
特にナツキのものはある程度切れるように特別な施しをされている。

「……終わりの安らぎを与えろ!フレイムバースト!」

敵の集団に向けて譜術を繰り出す。
油の多い肉の焼ける嫌な臭いが鼻に付く。
神託の盾兵の亡骸を踏み台に、上空を羽ばたくグリフィンの翼を切り落とす。

『ぎゃぉん!』

翼を切られ、飛ぶ力を失ったグリフィンがタルタロスの装甲にぶち当たってそのまま下へ落ちていく。

こいつらは恐らく六神将アリエッタの操っている魔物だろう。
俺にとってはそう脅威ではないが、実戦経験のない兵には辛い敵だ。

「――っ!?」

ギンッ――

背後からの気配に反応してナツキは防御の体制に入った。
後数秒遅ければ真っ二つにされていただろう。

ルークと似たような赤髪が一番先に目に入った。
次に入ったのは俺を睨む翡翠の瞳。少し垂れた目はルークと瓜二つだった。
しかし、髪型も服装もルークとはまったく違う。

「チッ――防ぎやがったか」

跳び下がり、男は舌打ちをしながら苦々しげに吐き捨てた。

「神託の盾騎士団六神将鮮血のアッシュ……」

長々しい彼の肩書きを静かに言うと、彼はへぇと僅かに口元を上げた。

「死霊使いだけかと思えば……中々骨のあるやつもいるのか」

「……舐めてもらっちゃ困る。これでも、中佐なんだからなッ!――エナジーブラストッ!」

詠唱破棄したぶん、威力は落ちるがアッシュに隙ができる。
跳びじさったアッシュに距離をつめ、レイピアを突き出した。

「くっ――」

剣でその攻撃は防がれるが、ナツキは更に力を込めて突く。

「牙突ッ!!」

ガギンッ――

鈍い音がして、アッシュが衝撃に突き飛ばされる。
宙で一回転し体勢を整えて着地したアッシュにナツキは更なる攻撃を仕掛けるために駆け寄る。

「双牙斬!」

「!」

着地と同時に剣が下から上へと切り上げられる。
バックステップを踏み剣を避ける。振りが大きい分、十分避ける隙はあった。

再び攻め手に回ろうと踏み出した。

――タァン、タァン

乾いた音がどこかから聞こえた。
腹部に鋭い痛みが走り、熱がじわりとそこから全身へと伝わった。
かしゃん、と軽い音を立ててレイピアが手から滑り落ちた。
拾わなくてはと思うのに、身体は思うように動かなかった。

「……っは、」

ナツキは崩れ落ち、肩で呼吸をする。
ぴちゃ、ぴちゃと赤い液体が甲板を汚す。

「リグレットか……余計なことを」

頭上でアッシュがぼそりと呟いた。
魔弾のリグレット。アッシュと同じ六神将のひとりだ。
譜銃と呼ばれる遠距離型の武器を使っているのを思い出す。

……ぬかった。敵は一人ではなかったというわけか。

心の中で舌打ちをして、ナツキはのろのろと顔を上げる。

「チッ、面倒だ」

「ぐっ……ちくしょう……」

首筋に走る衝撃に、だんだんと意識が薄れてくる。
悪態をつきながらナツキは意識を飛ばした。





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