タルタロス襲撃:02
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「彼、協力するでしょうか?」
足早に歩きながらナツキは目の前にいるジェイドに問いかけた。 ジェイドはの赤い眼が肩越しにナツキを見やる。
「さあ、どうでしょうか?」
「……質問を質問で返さないでください」
おどけるように答えたジェイドにナツキはがっくりと肩を落とした。 協力するにせよしないにせよ、どちらであれジェイドはこの任務を必ず遂行させるのであろう。
階段を上がり、甲板に出た。
風が強い。ジェイドの長い茶髪が風に靡いている。 手すりに右手を置き、ジェイドは荒れる髪を左手で押さえた。 なんとも絵になる仕草である。
「私は船橋の方へ行ってきます」
「えぇ、どうぞ。そちらは頼みました」
ジェイドは振り返ることなく答えた。 見えていないだろうが、一応一礼してからジェイドの元を離れる。
梯子を慣れた調子でさっさと上がり、船橋の方へと歩いていく。 時折すれ違うマルクト兵たちがナツキに礼をしてくる。
「あ、お前!」
丁度船橋前の半円形の広場に差し掛かったときだ。 背後から声を掛けられる。
振り返るとルークが赤い髪をはためかせながら此方へ駆け寄ってきた。
「なんですか?ルーク様」
面倒くさいなと思いつつも、それを表情に出すことはしない。 様をつけるのも正直のところ嫌だったが、彼はナツキよりもかなり上の地位だ。 キムラスカのものではあれど、仕方ない。
「お前って、ジェイドの部下なんだよな?」
「えぇ、そうですよ」
「じゃあ、今回の事の内容とか詳しく知ってるんだよな?」
そこで漸くナツキは彼が何を言いたいのか推測できた。
(大佐が喋らないなら、俺に……ってか?)
額に手を当て、ナツキはため息をついた。 ジェイドが言わないものをその部下であるナツキがいえるわけがないのだ。 というか、国家機密をおいそれと口外するなど、言語同断である。
「聞いても私は答えませんよ。国家機密ですので」
ナツキの言葉にちぇっとルークは口を尖らせた。 そんな不貞腐れた顔をされても答えられないものは答えられないのだ。
「ナツキさん!肩に乗せて欲しいですの!」
足元で小さなチーグルが甲高い声を上げた。ミュウだ。 ジェイドに聞いた話ではミュウはチーグル一族から追放されたそうだ。 季節が一巡りするまでミュウはチーグルの森に帰れないらしい。
ナツキは足元のミュウを右手でそっと掴み上げると自分の左肩にミュウを乗せた。 高いですの!凄いですの!と、きゃっきゃっと声を上げる。 少々喧しいがミュウはとても嬉しそうだ。 小さく笑い、ナツキはミュウの頬をつついた。
「こしょばいですの〜!」
嬉しそうにしているミュウが気に入らなかったのか、ルークは口をへの字にさせて此方を見ている。
「ところでルーク様、タルタロスはどうですか?」
「別に。全然面白くねぇし」
そっぽを向いてそう言ったルークにナツキは苦笑した。 タルタロスは軍艦なのだから、大人が見てもそう面白いものではないだろう。 年端も行かぬ子供ならまだしも。後は音機関が好きな人とかか……。
ルーク!とティアが咎めるように声を上げた。
「うるせーなぁ……俺は事実を言っただけだろ!」
「ルークあなたって本当に――」
「まあまあ、お二方落ち着いてください。私は気にしていませんから」
目の前で口喧嘩を始めそうな二人を慌てて止める。 こんなところでヒートアップされても面倒なだけだ。
お互い馬が合わないのだろうが、もう少し仲良くできないのだろうか。 ……ルークが相手では中々合う人もいないだろう。彼は人の好き嫌いが激しいようだから。 軽く頭を振り、ナツキは小さく息を吐き出した。
「私はそろそろ失礼しますね……」
ミュウをそっと肩から下ろし、ナツキは一礼してからルークとティアの元を去った。
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