第二話
「ひっ!!」
L字の角を曲がろうとしたタイミングで倒れてきた人に思わず声をあげた。倒れた人はクリスさんとよく似た服を着ている。
知り合いなのだろうか?
「アルファチーム!?」
アルファチーム?何のことかは知らないが、どうやらクリスたちの仲間と見て間違いないらしい。 無残に引き裂かれたような、ねじ切られたような亡骸を直視し菜月は吐き気を催して咄嗟に口元を押さえた。
「これ……銃弾による傷じゃないわ……」
死体を見てもうろたえる事もせず、シェバさんはいたって冷静だ。クリスさんを見ても、特に変わりはない。
こんな状況に慣れているんだ……いったい二人は何者なんだろう?見る限りは軍隊の人のようだが。
二人の後姿を見ながら、菜月は首をかしげた。
再び先に進んだ。 扉を蹴破り、銃を構えながらシェバさんとクリスさんが飛び込んだ。
「いったい何が……?」
「ぅ……わ……!」
中はおそらく、アルファチームの人たちだったものがたくさん転がっていた。赤黒い色が壁から床、そして亡骸を染めている。
俺は見ていられず、視線を外にそらした。
こんな光景、映画かゲームでくらいしか見たことがない。どちらも本物ではないよくできた作り物で、ましてや本物なんて見たことなどあるわけない。
部屋に充満する鉄の臭い。目をそらしても、一度見てしまった光景が目に焼きついて離れない。怖くて、恐ろしくて、俯く。
「おい!大丈夫か!!」
顔を上げると、クリスさんが一人の兵士に声を掛けていた。生き残りがいたらしい。
警戒するようにシェバさんは辺りの気配を探っている。
「何かが俺たちを……」
兵士さんはかすれた声で、クリスに事の次第を告げる。口元からは夥しいほどの血が流れていて、痛々しい。
「すまない、アーヴィングは取り逃した……罠だったんだ……」
「罠だと……?」
兵士さんは腰につけていたバックから何かを取り出しクリスさんに手渡した。ここからでは、何を手渡したのかはよくわからないが、小さくて四角いものだ。
「こいつは……?」
「連中のPCにあった……取引のデータが中に……頼む本部にこれを……」
それだけ言うと兵士さんは力なく首を落とす。菜月は言葉を失った。
死んだ、のだ。
何も言うことなんて出来なかった。人の死を目の前で見たことが酷く曖昧で、兵士さんはただ眠っているかのように感じた。……でも死んだのが現実で。 ゲームやテレビ、映画なんかとじゃ比べ物にならないくらい重たかった。
prev ◎ next
|