一安心、と行きたいところだったがまだ安心は出来なかった。 がくん、と機体が揺れる。 下降していっているのが、感覚でわかる。
鼓膜が破れそうなほどの爆音が響き、強烈な下からの衝撃に身体が浮いた。 ががが、と引きずるような音がして何かにぶつかり爆撃機は止まった。
「大丈夫か、ふたりとも」
「何とか……」
「うん……」
よろよろと身体を起こし、爆撃機から這い出た。 ガスくさいと思えば、目の前は赤い海が広がっていた。溶岩だ。 熱気が凄いし、あまりの暑さに倒れてしまいそうだ。
ウェスカーの姿は見えない。 同じところに落ちなかったのだろうか? あたりを警戒しながらも、進めるところを見つけて進んでいく。
カツン、カツン――
俺たちのものではない靴音にはっとして顔を上げた。 -UROBOROS-とかかれたミサイル弾が突き出ている爆撃機の上にウェスカーがいた。 爆撃機から落ちた衝撃は大きかったのだろう、少々おぼつかない足取りでウェスカーが歩く。
「最初に貴様を排除しておくべきだった」
「泣き言か?らしくないな、ウェスカー!」
「貴様……貴様だけは殺す」
憎しみのこもった目でウェスカーはクリスを睨みつけた。 そして、自分の隣にあったミサイル弾を殴りつけ、穴を開ける。 うねうねとした赤黒いツタの様なものが幾重にもなってウェスカーの腕から全身へと蒔きついていく。 強化された右腕に鋭い船の瓦礫を持つと、ウェスカーは爆撃機の上から飛び降りた。
「これが最後だ、クリス!」
ウェスカーはツタの蒔きついた右腕を振り回して俺たちにじりじりと近づいてくる。
「何故わからない、クリス」
「下がれ、シェバ、ナツキ!」
「このくだらない世界のどこがいい!?」
その時だった。 ぐらりと足元が揺れて、浮遊感が身体を襲う。 がらがらと音を立てて足場が崩れて、俺とクリスは落とされる。
クリスは痛みをこらえながらも、先へ行けとシェバにゴーサインを送った。
「早く逃げなきゃ、クリス!ここじゃ戦いにくい!」
クリスの手をとり、立ち上がらせて駆け出す。 ウロボロスパワーかなんだか知らないが、痛みがない。
「より強く正しく、高位の存在が生き残るルール。永らく人間はその決まりから外れてきた」
俺たちを追いかけてきているのだろう、背後からウェスカーの声が聞こえてきた。
「その決まりが!他者との大切さを忘れさせるから!人間はそのルールを捨てたんだ!」
円形の高台まで来るともう逃げ場は無かった。 振り返り、ウェスカーに向かって叫んだ。 つまるところ、弱肉強食って事だろ?俺は弱いからって誰かを殺したりなんてしない。 大切な人を護りたい。それだけだ。
ウェスカーの胸にウロボロスの弱点である球体が見えた。 だが、前からではツタが邪魔して攻撃できない。
「シェバ!奴の背後を狙え!」
「わかってるわ!」
遠くからシェバが狙撃している。 狙いは寸分たがわず、弱点を貫いている。
「うぐぅううあああ!!」
「!腕が!」
それまでは普通の腕だった左手にまでウロボロスのツタが蒔きつき腕を長く太くより強力なものにしていく。 すでにウェスカーの顔は人間とは言いがたいほどに変わりきっていた。 目は赤ではなく輝きすぎて黄色く見えていて、頬は皮膚がむけてどす黒くなっていた。
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