- ナノ -


隅にある照明の電源を落としていく。
どんどん暗くなっていく視界に少しの不安を覚えつつ、ウェスカーを盗み見る。
こちらには気付いていないようで、きょろきょろしながら辺りを見回している。

菜月とは正反対の方向にいるクリスがロケットランチャーを構えて狙いをつけている。

ドン、大きな弾がウェスカーに向けて発射された。
次の瞬間を見て思わず俺はあんぐりと口を開けてしまった。

「……う、うっそぉ」

ウェスカーはロケットランチャーの弾を見事に掴んでいた。
勢いがあるせいか仰け反ってはいるが、なんか凄い光景だ。

柱の影に隠れていたシェバが躍り出て、ロケットランチャーの弾を目掛けてハンドガンを撃った。
ウェスカーの持つロケットランチャーの弾が爆発し、ウェスカーはぐらりと倒れた。
流石のウェスカーもロケットランチャーを喰らうのはきついらしい。

シェバが羽交い締めをしてウェスカーの動きを止めた。

「ナツキ!薬を!」

「オーケー!!」

投げられた注射器をキャッチしてウェスカーの首元に向けて思い切り突き刺した。
――ぶしゅ、という音と一緒に血が飛び出して手についた。
形振りかまってられなかったとはいえ、なんとも気持ちの悪い感覚だった。

「っわっ――!」

ウェスカーは俺を突き飛ばすと、撃たれた箇所を押さえながら退いた。
苦しいのかその顔は苦痛にゆがんでいる。

「効いた?」

「恐らくな……」

ウェスカーの様子を見ていると、なんだかこちらも苦しくなってきそうだ。
敵だというのに……。そっと俺は胸に手を当ててウェスカーを見つめる。

頭を抱えてひざを突く。
苦しいのだろう呻き声が聞こえた。
ぐしゃりと、サングラスを破壊するようにウェスカーはもぎ取ると地面にたたきつけた。
その下から見えた顔には血管が浮き出ており、いつも以上に瞳は赤く爛々と輝いていた。

「貴様ら!」

地を這うような声でそれだけ叫ぶとウェスカーは人間離れした跳躍力で爆撃機へと向かっていった。

「逃がさん!シェバ、ナツキ、急げ!」

返事もろくにせずに3人は駆け出した。
ぐるりと爆撃機が滑走路に向けて回りだす。
エンジンが入れられて、炎らしきものが噴出している。

だが、まだ入り口は開いている。

一番足の速いクリスがしまり始める入り口に飛び乗った。
シェバが懇親の力を込めて足を動かした。
俺も一緒になって走る。

「シェバ!クリスの手を掴んでっ!!」

差し伸べられたクリスの手をシェバに譲る。
少し躊躇したようだが、シェバはクリスの手を掴む。

それを見届けてから、俺はぐ、と足に力を込めた。
俺にウロボロスがあるっていうなら、きっと出来るはず。
大丈夫、暴れる心臓を落ち着けて、俺は地面を蹴った。

タン、軽やかに俺は跳ねて、クリスの隣に着地した。
少しだけ着地失敗して足をひねりそうになったけど。

俺たちを乗せて爆撃機は空に飛び上がった。



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