第一隔壁を抜け、そのまま奥の扉まで行こうとしたときだった。
ガコォン――
穴の開いた地面から、とっても厳つくて危険そうな感じのものを背負ったダンディーな人が出てきました☆ ――それも、紅白二人組み。 丁度俺の立っていた所は穴から10センチも離れていないところ。
目の前に広がる大きくて強靭そうな肉体に思わず引きつり笑いが漏れた。
――あれ、さっきと同じ感じ……?
ギロ――と血走った目と目が合う。 その背負っている危険そうなものは何でしょうか? そして、その手に持っているとぉっても危なそうな筒は何でしょ、ウカ!?
語尾が片言なのは丁度目の前でその筒が振り上げられたからだ。
「んノォオオオ!!!」
振り下ろされるより前にバックステップで距離をとる。 ガトリングガンの先端が鼻先を掠ったのは、気のせいだと思いたい。
ガンホルダーからハンドガンを取りだし構えるが、どう考えても勝てっこない。 自分のハンドガンと相手のガトリングを見比べる。 ……無理だ、どう見ても無理だぁああああああ!!!
再びガトリングを振り上げられ、菜月は素早く後退する。 流石の菜月も2回目は冷静に避ける。
タァン――
下がりつつもハンドガンを撃つ。
「……っぁ……!」
狙いがはずれてしまい、ガトリングマジニの帽子を吹き飛ばしてしまった。 ツルッとした頭があらわになり、光りを反射させる。 その瞬間に心の中でごめんなさい、と謝った。 髪の毛がないのを気にしている人のカツラを取ってしまったかのようなそんな罪悪感があった。 いや、はげててもダンディーだよ!ガトリングさん!! だからそのガトリングの先をこっちに向けないで!!(涙目)
危険を察知して俺は急いでUターンをした。 カチ、というガトリングの操作音が聞こえた瞬間菜月は右に転がった。
ダダダダダダダ――
さっきまで菜月がいた場所に銃弾が穴を開けた。 あ、あぶな……もう少しで蜂の巣になるところだった…… ほっと一息つく暇なんてない。
俺は体勢を整えるのもほどほどに走り出す。 背後の銃声を聞きながら、俺は力の限り駆ける。 ガトリングの音が3重に聞こえるのはなんでなんだろうな…… それを疑問に思いつつも、危なっかしくて振り向けない。 振り向いたら最後、俺は蜂の巣になっている……と思う。 でも、でもっ……気になる……!
「つぉおおぉおうっ!!!?」
振り向こうと顔を横に向けた瞬間に目の前を通り過ぎる弾丸。 こけそうになるがなんとか持ちこたえただけ褒めて欲しい。
「ナツキー!止まると危ないぞー!!」
「はあっ!?」
遠くから聞こえたクリスの声に俺は勢いよく声の方を見た。 そして、物凄く遠い目をした。
あぁ……シェバ、貴方だったんですね……
とても生き生きした表情で固定型のガトリングをこちらに向けてぶっ放している。 菜月は何かを考えるよりも先に身体を動かした。 銃声が俺を追いかけるように響く。
ガトリングマジニよりも俺を攻撃してるんじゃなかろうか。 いや、多分気のせいだと思おう。そう思わないと色々とやっていけない気がする。
「よし、一体やったぞ!」
後もう少し持ちこたえろ、ナツキ! そんなクリスの大声に勇気付けられつつも、なんで俺がこんなことを、と同時に考える。 相変わらず、そんな役回り過ぎて泣きたい。ってか泣いていいですか?
梯子を上り、柱の陰に隠れ、ジャンプしたり……。それを5分前後。 漸くもう一体も倒れたようだった。
いつになくいきいきとしたシェバが固定機銃のある高台から降りてきた。 本当、楽しそうで何よりです、シェバ……。 シェバの後ろにいたクリスがちょっぴり引きつり笑いしていた。
二体のガトリングマジニのズボンのポケットをまさぐりカードキーをそれぞれとりだした。 メタリックカラーの赤と白のカードをクリスとシェバがそれぞれ持つ。 ゆっくりと奥の扉に向かって歩き出す。
どうしてだろう、何故だろう。 とても、淋しく感じたんだ。 俺はふたりの背中を見つめて、少しだけ目が潤んだ。 これで、終わりって感じがして……そんな、筈、無いのに。
「ナツキ?」
俺がついてきていないのに気付いたクリスが不思議そうに声をかけてきた。 はっとして俺は顔をぶんぶんと振るい、なんでもないと笑った。
「行こう、世界を助けるためにさ」
「あぁ、そうだな」
「えぇ」
菜月の言葉にふたりが強く頷いた。 ウェスカーを止めて、世界を護る。それが、俺の、俺たちの役目。
鉄製の強固な扉の両端についているカードリーダーにカードを通した。 ピピ、と読み込まれる音がして扉が開く。
入った瞬間、空気が重くなった気がした。 ううん、気のせいなんかじゃない。ずっしりと、肩にのしかかってくるようなそんな空気。 どくん、と胸がやけに大きく脈打った。
「シェバ、ナツキ、油断するな」
奥のトライセルのマークのついた扉の向こうに、ウェスカーはいる。 何故かわかる。そんな気配がする。
こつこつ、と歩く音すらも、うるさく感じた。
そっと扉の前に立つ。 そして3人は顔を見合わせ、静かに頷いた。
終焉を告げるベルが鳴り出した。
気付かない振りをしたのは俺だった。
prev ◎ next
|