- ナノ -


船橋の奥にあるエレベーターに乗り込んだ。

「爆撃機でミサイルを!?……でも、そんな物で飛び立っても落とされるのがオチ……」

「それって、まさか……!?」

ウェスカーの思惑に気付いて、菜月はクリスに視線を向けた。
険しい表情をしたクリスと目が合う。

「そのまさかだ。一度飛び立てば落とせない、落とせばそこからバイオハザードが始まる」

「目的は……確実にウィルスを拡散させること……?」

「恐らくな……想像していた中で最悪のケースだ。なんとしても止めないと。」

ポーン――

エレベーターが止まり、扉が開く。
二人が銃を構えながら外に出る。

「……俺がいたら、危険なんだろうな……」

二人は俺は俺でいいと、言ってくれたけれど。

俺は――

菜月は小さく自嘲気味に笑うと、二人の後を追いかけた。
エレベーターの外に出ると、熱気が顔を撫ぜる。
女性のアナウンスが流れている。

『警告、機関部にて火災発生。警告、第一隔壁を閉鎖します、乗員は速やかに退避して下さい』

機関部だからか知らないが、武装したマジニが大量にいる。
クリスやシェバからマガジンをもらいつつ菜月は戦う。
第ニ隔壁を開け俺たちは先へと急ぐ。

それにしても至る所で火災が発生していてすごく熱い。

額に汗がにじむ。
まるでサウナのようだ。それに、煙のせいで息がしづらい。
けほ、少し咳をしながら菜月は走る。
こんなところで二人に置いていかれたら多分死ぬ……いや、絶対死ぬ。

「ナツキ、あっちのレバーを!」

「あぁ!」

第一隔壁を開ける為には同時にレバーを引かなくてはならないようだ。
菜月は息を切らしたまま、レバーのところへ駆け寄る。

「せーの!」

なんとも間抜けな掛け声とともにレバーを手前に引く。

『第一隔壁を開放します、付近の乗員は注意してください』

そんなアナウンスが流れ、ゆっくりと重い隔壁が開き始める。

ビチャ――

何かが落ちる音。
ぞわ、っと全身が粟立つような感じがした。

「ナツキ!危ない!!」

シェバの声が遠くに聞こえる。
自分が振り向く動作が異常なほど遅い。
リーパーが鎌のような両手を振り上げている。

身体がすくんでしまって、悲鳴すらも上げれない。

――死ぬのか

死を直感した。
でも、同時に湧いて出た思い。

――死にたくない

「う、うわあああぁああああ!!!!」

全身全霊で叫んだ。
手が傷つくのも構わず俺はリーパーの鎌を左手で掴んだ。

鋭い痛みが走る。

そこまで切れ味は良くなかったのが不幸中の幸いって奴か。
リーパーの動きが止まった隙に右拳に力を込めた。

「うわああああぁあああ!!」

急所である白いワタに向けて、渾身の一撃を喰らわせる。
ぶちぶちという気持ちの悪い音を立ててワタがつぶれる。

力を込めすぎたのか、リーパーは2,3メートル向こうへ飛んでいった。

「……は、」

菜月は飛んでいったリーパーを見つめたままその場へへたり込んだ。
手のひらから大量出血してるっていうのに、それすら気付かないほど呆然としていた。

「ナツキ、大丈夫か!!?」

焦った表情のクリスが目に映る。
救急スプレーを持ってシェバが駆けつけてくる。

肩を揺すぶられて、俺は正気を取り戻した。

「あ、っつぅ――」

左手に走る激痛に顔をしかめる。
そろりと左腕に視線を移す。血まみれの左手が見えた。
見なけりゃ良かった、あまりの痛々しさにさらに痛みが増した気がする。
さっと視線を逸らしたが、痛むのは変わらない。

シェバが俺の傍に屈んで、左手の応急処置をする。
滲みるわよ、その宣言を聞くよりも前から俺は身体中に力を入れていた。

シュー――

「――――――っ〜〜〜〜〜っぅううう!!!!??」

消毒による激痛に目じりに涙が浮かぶ。
痛すぎる。死ぬ。
地面をバンバン叩いて悶えている菜月を他所にシェバはさっさと包帯を巻いていく。

「ほら、終わったわよ……まったく、心配させないでよね」

「ご、ごめん!」

ため息をつくシェバに俺は反射的に頭を下げた。
座っていたせいで土下座になっていたが。

頭の上でまたため息が聞こえた。
恐る恐るシェバを見る。
その表情が泣きそうに見えて、俺は何もいえなかった。

「手当ては終わったか?」

「えぇ。先へ進みましょ、急がなくちゃ!……ナツキ、走れるわね?」

立ち上がりながら、頷いて返事をする。
左手をグーパーして、動きを確認する。
なんとか、動きそうだ。これなら銃を撃つときも支障はないだろう。



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