- ナノ -

第十七話



ウロボロス・アヘリを倒した俺たちは再び船橋にいた。
赤いランプが光り、館内放送が流れている。

「待て」

何かに気付いたらしいクリスがひとつの液晶画面の前に行く。
そこに映っていたのは黒い飛行機、のようなもの。

「――爆撃機……!?」

「ジルが言ってた世界中にばら撒くって……」

「こんなものまで用意していたのか……」

クリスが歯噛みしながら、呟いた。
画面が爆撃機から変わる。

そこには――

「ウェスカー!」

俺はその名前にぎくっとした。
あの暗い赤色に睨まれたときのことを思い出す。

心拍数があがる。

(……大丈夫、あいつはここにはいない!)

自分に言い聞かせ、深呼吸をひとつ。
何とか気持ちを落ち着かせる。

ピリリリリリ――

電子音が響く。
クリスのモバイルからのようだ。

「ジル!?無事なのか?」

どうやら電話の向こう側はジルさんらしい。
ひょいと脇からモバイルを覗き込む。
テレビ電話のようで、ジルさんが映っている。

『えぇ、大丈夫……それよりも良く聞いて、ウェスカーの能力、あれはウィルスのせいなの。ウィルスは不安定で、それを安定させるために奴は薬を投与しているわ』

「……じゃあ、薬を打たさなきゃいいんじゃ……?」

俺の言葉にジルさんは首を横に振った。

『残念だけど少し前に使っているの、次の投与は当分先よ』

「ってことは……」

菜月は肩を落とす。
隣でクリスが悔しそうに顔をゆがめた。
だけど、とジルさんが続ける。

『その薬、分量を間違えると危険らしいの。大量摂取は奴にとって毒と一緒のはず。確か薬のラベルはPG67A/Wだったはずよ』

「PG67A/W!?」

知っているのかシェバが驚いた声を上げる。
そしてウエストポーチを探り始めた。

『私は脱出する方法を考えるわ』

ざざ、という雑音と通信画面に乱れる。
どうやら、通信状況が悪いのか、それとも、妨害されているのか……。
おそらく後者だろう。

『あなた達は薬を探して。エクセラが持ってたはずよ』

「ジル!どうした、ジル!」

様子を心配したクリスが声をかけるが、その努力もむなしく通信は切れる。
ウエストポーチを探っていたシェバが一つの注射器をとりだす。

「コレじゃない……?」

それには確かに"PG67A/W"と記されている。
俺が知らないうちに手に入れていたようだ。

「試す価値はありそうだ」

俺たちは顔を見合わせて頷いた。



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