- ナノ -

奥へ進んでいくと船橋へたどり着いた。
自動走行らしく、だだっ広い船橋には誰もいない。

おそらくここは安全だろう。
敵の気配はしない。
たくさんあるうちの一つの電子画面を覗き込むが何が書いてあるのかちんぷんかんぷんだ。
クリスとシェバは何かを調査しているみたいなので、しばらくそれの解読を試みる。
が、頭が痛くなりそうになり、即行で諦めた。
奥の上り階段の壁にホワイトボードになにか張ってあるのに気付いて俺はそちらに向かった。

「ぇえーっと、えーせーれーざー・じゃんご?」

なんじゃそら、と思いながらも続きを読む。
『衛星レーザー・シャンゴは、照射位置情報を「L.T.D.」(ロケットランチャー型の位置測定送信デバイス)から
 受け取ることにより……』
要するにものすごい威力の武器らしい。
これはその衛星レーザーの使い方の説明書のようだ。

とりあえずクリス達に見せた方が良いだろう。
菜月は紙を持ってメイン操作の画面を見つめながら何かを話しているクリス達の方へ向かった。

「なぁ!これならあのでっかい奴倒せるんじゃないか?」

「……衛星レーザー!?これならエクセラを倒せる!」

「一発撃つとしばらく撃てないのが難点だけど……きっと大丈夫ね」

上に行って取りに行きましょ!
シェバに頷いて菜月たちは奥の階段を駆け上がった。

ひやりとした潮風が頬を撫ぜる。
菜月は肩をぶるりと揺らした。
急いでいるのか先々行ってしまうクリスの背中を追いかける。

ガシャン――

さび付いた扉を開けて、クリスのもとへかける。

「衛星レーザーのロケットランチャーあった?」

シェバに問いかけると同時に背後で何かがぬるりと動いた。
海が大きな波しぶきを上げる。

「……ここで倒すしかないか……ナツキ、シェバ、気をつけろ!」

「うん!」「わかってるわ!」

返事をして俺たちは一斉に振り返った。
触手の先にオレンジ色をした大きな球状のものが幾つもついている。
今までの敵同様あれが弱点なんだろう。

「ナツキ!後ろにカードリーダーがあるから、これを通して!」

「わかった!……っと、」

投げられたカードを上手くキャッチして、菜月は急いでシェバの背後にあるリーダーにカードを通した。
横の壁が開き、中からL.E.D.が出てくる。
急いでそれを持つが――

「ぅ、お、重……」

力が強くなったはずなのに……あれ?
L.E.D.を壁の中から出したはいいが、一歩も動けない。ついでに言うと、構えることもできない。
ヘルプを求めようと二人に視線を投げかけたが、二人とも目の前の敵を倒すのに必死で俺を見ていない。

(俺だって、二人の役に立つんだ!)

このぐらいの重さなんて!と自分を勇気付けて全身の力を搾り出す。
じわりと身体の中が熱くなる。

急に肩に乗っていたL.E.D.が紙の様に軽くなる。

「へ?」

急激な変化に俺は戸惑いを隠せない。
が、戸惑ってる暇もない。

L.E.D.越しにウロボロス・アヘリを睨む。

「ふ、」

息を止めてトリガーを引く。
オレンジ色の球体に向かって白く光るレーザーが一直線に落ちてくる。

オレンジ色の球体が破裂して消える。
かなり効いたみたいだ。

「うっし…………ぅ、わ、うぶ!」

L.E.D.を片手にガッツポーズをする。
が、何かに足を取られて、思い切り地面に叩きつけられる。
ガシャン、とL.E.D.が地面に落ちて音を立てる。

にゅるにゅる何かが這い回る感触を足に感じて恐る恐る己の下半身を見る。

「う、ぎゃあああぁああ!!!」

悲鳴を上げたあとの菜月の行動は早かった。
足に巻きつく黒い触手をありったけの力で引きちぎった……素手で。

そして、自分の手が気持ち悪いと喚くのは10秒後。

「あれが本体だ!ナツキ、レーザーを撃ちこめ!」

「うえぇぇう、うぅ手がぁ……」

タン――

「とっとと撃ちなさいよ!」

「は!ただ今!!」

横切る銃弾に俺は背筋を伸ばして敬礼をすると、すばやくL.E.D.を構えた。
あぁ、軍隊ってこんな感じなんですね……(遠い目

ゆで卵の黄身のような色をした敵の本体に向けてレーザーを撃つ。
ハンドガンやマグナムを撃ったときの様な反動がないのは、これ自体がレーザーを発射している訳ではないからか。

神の鉄槌なんて言葉が良く似合いそうな、白い白い光がアヘリの中央に落ちる。

アヘリが悲鳴のような聞き苦しい声を上げながら、痛みに悶える。
その様子に菜月は無意識にぎゅっと胸の部分を掴んだ。

畳み掛けるようにクリスとシェバが銃を連射しているというのに、俺はただ呆けていただけだった。
動けなかった。同じだと、思ったから。

……俺は、ウロボロスで、あいつも、ウロボロスで。

……死にたくないって言っているような気が、して。

どうしても、止めをさせなかった。
腕が上がらないんだ。

俯いて、目を閉じて、耳を塞いだ。
それでも、隙間から入ってくる悲鳴はずっと止まなかった。

「――どうしたの?」

「……っ!」

肩を叩かれ、俺はびっくりして閉ざしていた目を開けた。
心配そうなシェバの顔。
決着はついたらしい。もうアヘリはいなくなっていた。

「……シェバ、俺が――……うぅん、なんでもない」

菜月は開きかけた口を閉ざした。
言いたいことがあったら遠慮なく言ってくれていいのよ?
シェバはそう言ってくれたが、俺は首を振った。

言うべきではないと、思ったから。

でも、いつか言わなければ。

少しだけ待ってて。

きっと言うから。



……最期に。



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