「……っぁ、は……」
当たると思っていた腕はシェバに触れる数センチの所で止められていた。 シェバは顔を上げてナツキを見た。
「シェ、バ……にげ、て、くれ……」
苦しそうに搾り出すような声でナツキが言った。 瞳は赤いままだが瞳孔は普通の丸になっていた。だが、尖がりそうになったり丸になったりと不安定だ。
「ナツキ!大丈夫なの!?」
「…………」
シェバの問いにナツキは何も言わず、代わりに小さく、はかなく、微笑んだ。 安心させようと笑顔を向けてくれたのだろうが、それは私の不安を煽っただけだった。
――ナツキが消えてしまうような気が、した。
「ナツキ!ねぇ!」
消えて欲しくない。仲間として、友達として……そして、大切な人として。 僅かな時間しか共にしていないのに、もうこんなにも大きな存在になっていた。
「っぁあ……はぁ、ぐっ……!」
苦しそうにナツキが頭を抱えた。 らしくなく悲鳴を上げて、必死にナツキに呼びかける。
少しでも、それで楽になってくれるならば、何度でも名前を呼んであげよう。 私たちがいるってことを気づかせてあげよう。
ウロボロスだったって、プラーガだったって、ナツキはナツキなのだから。 臆病で、変なところで強くて、でもやっぱり恐がりなナツキが私は一番好きだから。
「シェ、バ……」
ダァン―――
ダァン―――
赤い、紅い、朱い、血飛沫が――
ダァン―――
ナツキを汚した。 力なく、地面に崩れ落ちる。
体中の血液が抜き去られたような気分になった。 おそらく私は今、酷く蒼い顔をしているだろう。
「ふん、使えん奴め」
ウェスカーはそう吐き捨てると、ナツキを蹴り飛ばす。 紙の様に飛んで、地面に叩きつけられてもナツキはピクリとも反応しなかった。
何が起こったのか一瞬分からなかった。
「ナツキッ!……何をするの!!」
許せなかった。 ただ、純粋に怒りが体を支配した。
私の睨みも物ともせずにウェスカーは肩をすくめた。
「何を、か?ただ躾けただけだ。それは俺の所有物だからな」
まるで、動物を扱うかのようなウェスカーに怒りがふつふつと湧き上がる。 ナツキは犬でも猫でもない。れっきとした人間だ。 体の中にウロボロスとプラーガがちょっぴり入っているだけ。
「ナツキは私たちの仲間よ!!」
「ふ、馬鹿らしい。あれはただの人の皮を被った化け物さ」
「ナツキは!化け物なんかじゃない、俺たちの大切な仲間だ!傷つける事は許さない!」
タァンタァン――
二発の銃声が、戦いの火蓋を切り落とした。
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