「ナツキ?」
叫んでいたナツキが突然、黙り込んだ。 だらりと腕を下に垂らして、俯いているから表情はうかがうことが出来ない。
ナツキのそばでウェスカーが「いい子だ」と笑った。
ナツキ?いったいどうしてしまったんだ?
シェバもナツキの名をしきりに呼ぶが反応がない。 悪い予感がクリスの頭の中を埋めつくす。
「ナツキ、面倒なゴミがいる。潰してくれるか?」
「…………」
ウェスカーの声に反応したのか、ナツキが立ち上がった。 しかし、顔は下を向いたまま。 前髪の向こう側に紅がちらついた気がした。
タンッ――
視界から一瞬のうちにナツキが消えた。
否、消えたのではない。移動したのだ。 それに気づいたのは、強い力で腹を殴られてからだ。
「クリスッ!?」
「クッ!!ナツキ!」
鳩尾を殴られ気が飛びそうになったが、何とか持ちこたえる。 そして、俺たちの目の前に立ちはだかるナツキを見た。
前髪が隠していた顔があらわになる。
「「!」」
茶色だったはずの瞳は紅く血色に、瞳孔は爬虫類の如く鋭くとがっていた。 あれは、まるで、ウロボロス。
今まで感じた事のないナツキの殺気が俺を襲う。 じわっと冷たい汗が伝った。 ナツキに銃を向けることがあるなんて、思いもしなかった。 クリスは苦しそうに顔をゆがめてナツキに向けてハンドガンを構えた。
撃てるだろうか?俺に、ナツキを。
きっと俺には出来ないだろう。 今もほら、カタカタと手が震えている。
タンッ――
地面を蹴る軽い音。 二撃目を避けるために、ナツキから目を離さない。
「クッ!」
1秒も立たないうちにナツキはクリスの横に移動すると、キックを繰り出してくる。 それを腕で防ぐ。が、腕が小さくゴキとなった。
間髪をいれずにナツキが三撃目を繰り出してきた。
(避けれない―――!!)
世界がスローモーションで回っている。 ナツキの紅が悲しそうに泣いているように見えた。
タァン――
突如聞こえた銃声にナツキが攻撃を途中でやめて、後ろに下がった。 見るとシェバが銃を構えている。
……あぁ、シェバが撃ったのか。
ナツキに向けて銃を撃つのをためらっているように見える。 シェバも、俺と同じ気持ちなのだろう。
横槍を入れられて怒ったのか、ナツキはシェバへと標的を変えた。 すばやくシェバに近づくと、右手を振り上げる。
「ナツキッ!しっかりしてよ!ねぇ!!」
シェバが懇願するように、悲痛な声で叫んだ。 けれどナツキは止まらない。 右手が、シェバに向かって振り下ろされた―――
「シェバ!逃げろっ!」
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