- ナノ -

第十五話



飛び込んだ先には、見覚えのある女性の後姿が。

「そこまでよ!エクセラ・ギオネ!」

ドクン――

ゆっくりとエクセラはやる気のない拍手をしながらこちらに振り返った。
画面越しに見たとおり、いかにも悪そうな女性だ。

「ブラボー!」

銃を突きつけられているのに、エクセラには恐怖の欠片も見えない。
何を考えているのか分からない、無表情だ。

「しゃべってもらうぞ!!」

「教えてあげない事もないけど……どうしようかしら?」

ふふ、とエクセラは鼻で笑うと、首を僅かに傾けた。

ドクン――

余裕をもてあましてるってことは何かあるんだ――なにか……!

ハッと前を向いたときには黒いお面を被った奴に蹴り飛ばされていた。

「かはっ!!?」

「ナツキ!……くっ!」

俺を蹴飛ばしクリスとシェバの間に着地した奴は、間髪いれずにシェバの銃を持つ手を蹴った。
銃を落とす、とまではいかなかったものの、シェバは怯む。

至近距離でクリスが銃を発砲する。

見事にそれは命中し奴の仮面を弾き飛ばした。

ドクン――

隙あり、とばかりにクリスとシェバが銃を立て続けに発砲する。
奴はバク転で避けてゆく。よくもまあ、そんなにずっとバク転できるものだと思う。

「下手な小細工を!さっさと言え!」

突然攻撃されて不愉快そうにクリスが叫んだ。

ドクン――

そのときだった。



「相変わらずだな」

今まで一度も聞いたこともない第三者の声がそこに響いた。
声は俺の中の何かを揺らしながら、じんわりとしみこんだ。

だが、声のほうを見ることは出来なかった。
自分が自分でなくなりそうな気がして、まるで体中がその存在を知る事を拒否しているかのような。

ドクン――

ずっとさっきから心臓が五月蝿い。
耳の横に心臓がついてるんじゃないかという錯覚を起こすほどに。

「ウェスカー!やはり生きていたのか!」

「こいつが!?」

ドクン――

クリスの声に体が震えた。

怖い、こわい、コワイ―――
ウェスカーという人物を見ることが恐くて仕方がない。

「貴様とこうして顔をあわせるのは、スペンサー邸以来か?」

カツカツ、とウェスカーが歩いて近づいて来ている音が死神の足音に聞こえた。
冷水をかけられたのかと思うほどに体温が下がっているのが感覚で分かる。

こないで、こないで、こないで!

心がウェスカーを恐れて、叫ぶ。
声すら聴きたくなくて、耳を塞ぎたい衝動に駆られる。

「久しぶりに、あのときの三人が再会したんだ。もう少し嬉しそうな顔をしろ」

もうすぐそこに、ウェスカーがいるのが気配でわかった。
クリスもシェバもウェスカーに銃を向けるのに必死で俺の異変には気づいてくれちゃいない。
でも、心配かけるのは嫌だ。

ドクン――

けれど、恐い。

「三人だと!?」

「やれやれ……鈍い男は嫌われるぞ」

何か話している、でも、俺にはそれどころじゃなかった。
震える体を抑えるのに必死だった。

何をしたのだろう?
場の雰囲気が一瞬にして変わったのが、恐怖に飲まれながらもわかった。



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