- ナノ -



扉を開けた先は、無機質な実験施設とは一変して土色がむき出しの遺跡だった。
だが、遺跡とはいっても人の手が加えられ、一部がコンクリート色になっている。
電気は通されているらしく、配線が天井をつたっている。
マジニのいる気配はない。

「また遺跡だわ、エクセラはここに……?」

「先へ進むにはこの橋を降ろすしかなさそうだな」

「えー、どうやったらいいのかな?小屋の中に何かある?」

尋ねるとクリスが小屋の鉄格子のかけられた小窓を覗いた。

「レバーがあるな。おそらくあれが橋を降ろすやつだろう」

小屋の中に入ろうとドアのノブをひねったが、開かない。
鍵がかけられているみたいだ。
どう?という風に見てきたシェバに顔の前で手でバツを作る。

菜月のジェスチャーを見て、シェバはクリスに視線を向けた。

「上だな。あそこから行くしかないだろう」

クリスが指をさしたのは、簡易式っぽいエレベーター。
あそこから続いている道はどうやらぐるっと部屋を半周して小屋の上まで続いている。
だが、道の途中でガラクタの詰め込まれた重たそうなコンテナが道を塞いでいる。

これは流石に、シェバに行かせるのは酷だろう。
だが、俺だけであのコンテナを押せるわけがないので、結果クリスと俺が行く事になった。

柵を跨いでエレベーターに乗る。
菜月とクリスがエレベーターに乗り込んだのを確認するとシェバはエレベーターのレバーを引いた。

ガタン、と起動音がしてエレベーターが上がる。
エレベーターから降りて、簡易に作られている通路を歩く。

――と、その時。

金網を伝って下から、不気味な足音が聞こえた。

「!」

面倒な事にリッカーβが二体上ってきた。
俺はハンドガンを、クリスはショットガンを構える。
シェバが下でライフルを構えたのが視界の端っこで見えた。

『俺がショットガンで撃つ。援護を頼む』

音を発さずにクリスが言った。
それに俺は頷いて、リッカーβを睨んだ。

ダァン――

ショットガンがリッカーβを二体とも吹き飛ばして壁にたたきつけた。
しかし、それだけではリッカーβは死なない。

「これでも、喰らえ!」

倒れたところに俺がハンドガンの弾を心臓部分に向けて叩き込む。
菜月のハンドガンのマガジンがなくなったところで、クリスが再びショットガンで撃つ。

空のマガジンを捨てて、新たなマガジンを入れて銃口をリッカーβに向ける。
シェバのライフルの銃声も聞こえる。
最期、クリスのショットガンで吹き飛ばされリッカーβは動かなくなった。
リッカーβに攻撃の隙を与えることなく倒すことができた。

安堵のため息をひとつだけついて、しっかりと前を見据える。

「急ぐぞ、ナツキ。もしかしたら、あいつがまた来るかもしれない」

「うん、わかった」

頷いて、走り出す。
ぎしぎしと簡易式の通路が音を立てる。
簡易式の通路と遺跡の通路の変わり目に差し掛かったときだ。

『クリス、ナツキ!来たわよ!私も落とせる限り落とすけれど、量が多いわっ!!』

通信機を通じてシェバが叫んだ。
クリスと俺は目を見合わせると、走る速度を上げた。

シェバが撃つライフルの音を聴きながら、コンテナに走り寄る。

「せーのっ!」

掛け声でタイミングを合わせてコンテナを押す。
見た目どおりコンテナはものすごく重い。力いっぱい押してもなかなか思い通りに動かない。

後ろからひたひたというリッカーβの足音が聞こえて、恐怖をわきあがらせる。

『危ないわ!』

シェバの叫び声に、菜月は即座に反応して振り向き様に銃を撃つ。
見事に舌に当たりリッカーβを怯ませる事が出来た。

「数が、多い……!」

シェバが撃ち落してくれても沢山のリッカーβが蠢いていた。
菜月はごくっと生唾を飲み込んだ。

(対処できるか?じゃないしなきゃいけないんだ!!)

僅かに恐怖に震える手を抑えてハンドガンを構える。

「大丈夫か?俺も加勢――」

「うぅん、いいよ。クリスはコンテナ押して早く落として!」

加勢に入ろうとするクリスを遮って俺はリッカーβの前に立ちはだかった。
誰も加勢にはこれないこの状況は初めてで、感じた事のない恐怖がわきあがる。

(大丈夫、大丈夫。落ち着けばいい)

まるで、自己暗示のように"大丈夫"を心の中で繰り返した。
小さな深呼吸を一回。
にじり寄るリッカーβを睨みつけた。

「ていっ!!」

間抜けな掛け声を上げて、俺が投げつけたのは焼夷手榴弾。
焼夷手榴弾はリッカーβにぶつかると、瞬く間に炎をおこした。

これで、少しの時間稼ぎは出来る。

しかし、油断はしない。できない。
これしきの攻撃でリッカーβが倒れるとは思えないからだ。
菜月は未だ燃え盛る炎の向こうを睨みつけ、銃を構える。

ヒュッ――

空を切る音。
俺はそのかすかな音を聞き逃さず、サイドステップを踏んだ。
横をすり抜けるリッカーβの舌。

「やっぱり、死んでない!」

ハンドガンを撃ち続けながら、狭い通路を右左に避ける。
じりじりと距離を縮めてくるリッカーβに冷やりとした汗が流れた。

「ナツキ!下がれ!」

「わかった!」

どうやらコンテナを押し切る事が出来たクリスが号令をかけた。
頷いて、すばやくクリスの後ろに下がる。
菜月が攻撃範囲から出た刹那にクリスはショットガンを発砲した。

広範囲攻撃のショットガンは大量にいたリッカーβを一斉に怯ませた。
そのうちに小屋に通じる梯子を降りて、橋を降ろすレバーを引っさげる。

外で待機していたシェバと合流し、橋が下がりきらないうちに渡る。
奥の扉にむかって、俺たちは飛び込んだ。




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