「あ、」
案の定、黄色をした大きな電源スイッチが置かれていた。 どうやら武器庫のようで、電源スイッチの他にも、手榴弾やハンドガン等の弾、ライフルも置いてある。 菜月たちはこれ幸いと武器をありがたく頂かせてもらった。
少しばかり軽くなっていたショルダーバッグは再び重みを取り戻し満足そうに膨らんでいた。 さて、電源が入ったならさっきの電気の通っていないスイッチも使えるようになっただろう。
ふんふんと鼻歌交じりにレバーに手をかけ――
ガコォオン――
るよりも先に、リフトが動き始めた。
「あり?」
おかしいな俺まだレバー引いてないんだけどなぁ、と思い菜月は不審そうな表情をしてリフトを見た。 と、同時に自分の方に降ってきた何かを反射的に手でキャッチをする。
「っと、あぶねぇ……ってぇええええええぇえ!!!だ、だだだいなまいとぉおおお!!」
目が飛び出そうなほど驚くと、菜月は慌ててそれをリフトの方面に向けて投げ捨てる。 僅か数メートル飛んだところで、ダイナマイトは火を噴いて大きな爆発を起こした。
ひやりと冷たい汗が米神を流れた。 後数秒遅かったら、間違いなく俺の体は木っ端微塵に吹き飛んでいただろう。 しれっとしたシェバの視線が今の俺にはダメージ絶大だ。 まるで、馬鹿ね、何してるのよ。って言ってるみた――
「馬鹿ね、何してるのよ」
じゃなくって、言ったぁあああああ!!!現在進行形で言ったぁあああぁああ!!! 当たった事がすっごく哀しいぃいぃいい!!!俺の直感すげぇ!って言いたいところだけど、かなしいぃいい!!!
心の中で絶叫しているうちに足元が動き始めた。 ん?動き始めた?
ふと我に返って、自分自身のいる場所を確認する。 足元動く、ってリフトの上じゃん!!さっと二人のほうを見るとクリスは何時もどおりの表情で、 シェバはいつも以上の笑顔でスイッチの前で手を振っている。 は、め、ら、れ、たぁああああああ!!???
「って、ンぎゃぁあああああぁあああ!!!??」
9mmパラベラム弾が雨のように降り注ぎ、俺は慌ててそれを右に左に避けまくる。 涙がほろりと一粒こぼれるが、泣き叫んでる暇なんてない。ってか、泣いたら前がぼやけて避けれなくなる。 マジニは二人からは狙えない位置にいるのか、クリスとシェバは何もしてくれない。
さっとすばやくハンドガンを構えるとマジニの眉間を狙って発砲するが、
ガコォン――「あ」
リフトが止まった衝撃で手元が狂う。 菜月の放った弾はマジニの真横を通り過ぎただけだった。
なんというばっどたいみんぐぅうううう!!??
此方に向いたマズルに菜月は蒼い顔をさらに蒼くさせた。
――来るッ!!!
トリガーが引かれて弾が飛び出すその時を直感的に悟り、菜月はサイドステップで照準から外れる。 それと同時に右手に持つ銃は再びマジニを狙った。
マジニのマシンガンが菜月の真横の地面を削り、菜月のハンドガンがマジニの眉間を貫いた。 物の数秒で片はついた。 俺でも冷静に判断すれば、マジニなんて楽に倒せるんだ。 自分に自信を持て、と自分で自分を励ました。
俺は俺、俺以外のなんでもない。
存在を確かめるかのようにハンドガンを握り締めた、強く、つよく。
タァン――
「はぁうあ!!!」
鼻先を掠めた不意打ちの銃弾に菜月はしりもちをついた。 あぶ、あぶ、あぶねぇええええっ!!もう少しで俺の鼻先が死亡する所だったぁああ!!
左手で鼻をさすって鼻の無事を確認し、シェバのほうをみる。 ギラリと黒光りする重厚なライフルのマズルが此方を向いている。 ……俺、味方ですよね。なんで、狙うんですかっ!?何の恨みですか!!?シェバさぁーん!!
「早くリフトを動かしてくれるかしら」
「はひぃ、すいませんっ!!」
遠くにいるはずなのに、なぜか耳元で聞こえたシェバの声に恐れをなして、 俺は慌ててこちら側にあるレバーを引いた。 リフトを動かして、漸くクリスとシェバと合流する。
さぁ、先に進もうと足を動かした瞬間―― タイミングを見計らったかのように、ロケットランチャーを担いだマジニが遠くの扉から出現する。 そのほかにも、スタンロッドを持つマジニがこちらに向かって走ってくる。
「ちょっ、ロケットランチャぁああああああっ!!?」
自分に向かってくるロケットランチャーの弾をしゃがむ事によって避けた。 ゴオッ、と銃弾とは違う恐ろしい音が鼓膜を揺らした。 通り過ぎる瞬間の熱はずっと忘れる事が出来ないだろう。
ロケットランチャーの弾は下の階の機械にぶつかり、地を揺るがすような音を立て爆風を起こした。
「く、二撃目がくるぞ!早く倒せ!」
「んなこと、いわれて、もっ!!」
すばやく立ち上がって、銃を発砲した。 敵のロケットランチャーもほぼ同タイミングで発射される。 しかし、銃弾の方がスピードは速い。 ロケットランチャーの弾と銃弾がぶつかり合い、黒い爆煙と火の粉が飛び散った。
煙を吸い込んで、菜月は咽込んだ。 火薬の燃えカスの臭いが鼻を刺激する。
「げふげふっ、火薬くせっ!!」
生理的に出てくる涙を服の袖でぬぐいとる。
「ナツキ、撃て!」
煙がはれると同時にクリスが叫ぶ。 菜月は少しばかりの視界の悪さを無視して、照準を一秒で合わせて弾を放つ。
(あったれぇええええ!!!!)
今度は撃たれる前に相手の脳天を貫いた。 ロケットランチャーを取り落とし、力なくマジニは膝をついた。
「さすがね、ナツキ!でも、周囲にもう少し気を配りなさい!」
シェバが菜月の背を守るように歩み寄り、マシンガンを撃つ。 視線の先に断末魔の声を上げるマジニがいた。いつの間にか近寄ってきていたようだ。
「サンキュ!」
「どういたしまして!でも、まだ油断しないで!」
「怪我はするなよ?」
視線を合わせて小さく笑いあう。でも、少しだけ。 一瞬先には、目の前の敵を睨みつけてトリガーを引き抜く。
シェバが一番最初にマシンガンを撃って敵にダメージを大きく与える。 クリスが次にショットガンで撃って敵の攻撃を繰り出させないようにする。 最後に俺がハンドガンで撃って敵にとどめを刺す。
駆け足でどんどん先に進む。 ただこのときがずっと続けばいいと、そう、思った。
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