- ナノ -


男が先ほどよりも大量の触手を体内から排出し体中にまとわりつかせる。
そして、そのうち大きな触手の塊となり、俺たちの方ににじり寄ってきた。

『警告、バイオハザード発生。焼却処理を実行してください』

感情のない女性のアナウンスが響く。
情報を得ることができた。"焼却処理"だ。おそらく火に弱いのだろう。
とはいえ、ライターもなにも持っていない。
……ライター如きでアレが燃やせるとは、全く思わないが……。

距離をとりながら、広い空間を走り回る。

「焼却処理ったって、どうやって燃やせばいいのぉおおおおお!!!」

ポーン――菜月が叫んだ瞬間、どこからともなく音が鳴る。

『焼却剤充鎮完了。使用が可能です』

そんなアナウンスが聞こえて、奥に設置されていた何かの赤いランプが緑に変わった。

「これで燃やせばいいのか!」

一番そこに近かったクリスが駆け寄り、それを背負うとウロボロスに立ち向かう。
菜月とシェバも反対側からウロボロスを挟むようにして駆け寄る。
火炎放射器をクリスが発射し、菜月は先ほど見つけた焼夷弾を投げつけた。

火炎放射器の火力と合わさり更に大きな炎がウロボロスを包み込んだ。

『うぎぁああああぁあ!!!』

耳を押さえたくなるような悲鳴が聞こえて、ウロボロスの弱点である赤い球状のものが露出した。
菜月とシェバがそこに向かって銃弾を撃ち込んでいく。
クリスは火炎放射器の燃料がなくなるまでひたすら燃やし続ける。

「もう少しで燃料がなくなる!気をつけろ!」

「オーケー!」

火炎放射器の燃料がなくなり火が出なくなったため、俺たちは一度ウロボロスから間合いを取る。
クリスは充填するため、火炎放射器を元の位置にもどした。

充填完了まで暫く時間が掛かりそうだ……。

再び赤いランプに変わったのを横目で見ながら菜月は思う。

「ナツキ!前だ!!」

「えっ……ぶふぅ!???」

クリィイイイイス!!注意がお、そ、す、ぎぃいいいる!!!
目の前にいたウロボロスに顔から突っ込み、触手がぬるぬるとまとわりつく。
なぜかダメージはないものの、精神的に……死ぬ。
とにかく慌ててウロボロスから離れて、ついてきた触手を払う。

ぁああああぁあ!!!水で顔洗いたいぃいいい!!!

気持ちの悪い触手に突っ込んだ感触がまだ顔に残っている。
服でぬぐってはみたものの気持ち悪さは取れない。

「っだから!こういうときにボーっとしないでっ!!」

「え?―――っあべしっ!!」

シェバに声をかけられたと思ったときには既に俺の体は倒れていた。
そして俺の上を長く伸びた触手が通過していく。
もうすこし、ましな助け方はないんですか……シェバ……。
今の後頭部を思いっきりぶつけたんですけどぉおおお!!地味に痛かったぁあああ!!!

「あら、じゃあ死んでもよかったの?」

「すいません、よくないです。助けてくださってありがとうございます」

…………(泣)
なんで、シェバは俺に冷たく当たるんでしょうか……グスン

ポーン――充填完了の合図だ。
菜月は気を取り直すと、クリスと目で会話をするとウロボロスに向かう。
先ほどと同じように火炎放射器で怯ませて、弱点を狙撃する。

しかし、前のウロボロスよりも強化されているようでまた火炎放射器が空になってしまった。

もう2回同じ動作を繰り返して漸く倒すことが出来た。
男は骨と僅かに残った肉のみになって倒れた。
あまりにも無残な死に方に菜月は何も言わずに合掌しておいた。
来世では幸せになってほしいと願いながら。


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