- ナノ -

第十三話



「彼女が通していた場所、この施設の中みたいだったわ」

「監視されているのか……」

漸く涙も止まり、俺たちは置くに進む事にした。

「さっきのB.O.W.も、あの女の差し金かもしれんな」

奥に進みながら、深刻な表情をしながら二人は話す。
監視なんてされてたら行く先々に敵を配置されてしまう……戦闘は避けられないって訳か。

「捕まえて聞き出すしかないわね、ジルの事も、B.O.W.の事も」

「そうだね」

重そうな扉を開けながら、俺は頷いた。
俺のことも、知らなくちゃ……。
一人心の中で、決心した。


太いパイプがむき出しになって、廊下の半分をしめている。
きらりと眩しい夕日が窓から差し込んでいる。
もうそんなに時間がたったのか、クリスとシェバに初めてあったのが一時間ほど前かと思っていたのに。
でも、今はそんな感傷に浸っている暇なんてないんだ。

「あいつら……銃を持っているわ……」

上手い事置かれていた箱の陰に隠れながら、シェバが声を潜めた。
シェバの言うとおり、危険そうな銃を持ちながらだらだらとしているマジニが見える。
気配察知は鈍いのか此方に気づく様子はない。

「よし、ライフルで先制攻撃をしよう」

クリスが肩からライフルをおろし、構えるとスコープで狙いをつけた。

ダァン――

遠くに立っていたマジニの頭が吹き飛んだ。
見事な腕前に、菜月はおぉと歓声を上げた。

しかし、マジニが一体倒されたことに気づいた他のマジニが銃を構えて臨戦態勢になる。
銃を撃たれる前に菜月がハンドガンをクリティカルショットさせて倒す。

「うっし!!」

小さくガッツポーズをする。
俺ってもしかしたらBSAAに入れるんじゃね!?

「臆病なのをどうにかしないと入れないわよ」

「それはどうにかなる――って俺、口に出してた?」

心の中で言ったはずだったんだけど……。
俺の質問には答えずに、シェバはにっこりと笑っただけだった。
……黒いっ!!笑顔が黒いよぉおおおお!!!!

「何やってるんだ?早く行くぞ」

何にも知らないクリスがきょとんとした顔で二人を見つめていた。
それから、銃を持ったマジニや防具を頭や胴につけたマジニ、スタンロッドを持ったマジニに襲われたが全て撃退した。
遠くからクリスがライフルで射撃、俺が近くに来た奴らを撃退、シェバが手榴弾で清掃。
設置されていたガスボンベはありがたく使わせてもらった。

いやぁ、いいね!ガスボンベ!
手榴弾とガスボンベの爆発に巻き込まれかけたときは死ぬかと思ったけど……ね。
あのときのシェバさん――いや、様の顔は夢に出そうなほど、怖かったです。


再びエレベーター発見。
ボタンを押してドアを開け、乗り込んだ。

『……ロス……の運搬は……了したわ……』

一番上まで行く間、突如、通信機から声が漏れた。
三人はさっと顔を見合わせた。

――この声は……。

クリスはよく聞こうと、通信機を耳に押し付ける。

『ええ……もうすぐ予備の薬も準備できるわ』

「エクセラの声だ」

菜月の言葉に二人は頷く。
向こうは此方の声は聞こえていないのか、そのまま話し続けている。

『あと……アルバート…………楽し……』

「アルバートだと!?」

雑音交じりで途切れ途切れにしか聞こえなかったが確かに『アルバート』と。
信じられない表情でクリスが叫んだ。
アルバートさん、て誰だっけ……?

『ねぇ……体の……?』

それだけ呟くと通信は途切れてしまった。

「クソッ!まさかウェスカー……」

クリスの呟きで漸く俺はアルバートさんのことを思い出した。
確か、崖から落ちたんだったよね……崖から落ちて、生きてるとか……超人だ……。
アルバートさんの生命力の強さに恐れを感じ、菜月はごくりと生唾を飲んだ。

ポーンという音が響いて、エレベーターが止まった。


「な、んか、またヤな感じが……」

エレベーターを降りた俺たちを出迎えてくれたのは、血まみれの廊下だった。
この血の飛び散り方にデジャビュ……。

音を立てないように、忍び足で角を覗いた。

「……ぃ、ぶふ」

叫びそうになるのを慌てて自分の手で口を塞いで止める。
リッカーβが渡り廊下の手前から奥まで、大量に張り付いていた。

音を立てずにクリスとシェバに目配せする。

『どうする?』

『こいつらを相手するのは弾の無駄だ……走り抜けよう』

リッカーβに気づかれないように口ぱくで会話をし、クリスの提案に頷く。
クリスが指でカウントする。3、2、1、GO!!

バッと三人は一斉に渡り廊下を走り出す。
俺たちの足音に気づいたリッカーβがこちらに攻撃を繰り出すが、既に俺たちは過ぎ去った後。
リッカーβの爪先が壁を切り裂いたであろう音が聞こえる。
後ろを振り向きたい衝動に駆られるが、その瞬間あの鋭利な爪で貫かれるだろうと思うととてもじゃないが振り向けない。

目の前にいるリッカーβは、横を通る事で簡単に突破できた。
渡り廊下の終わりまで後もう少し。ラストスパートをかけて扉に向かう。

「うぉぉおおおお!!!……フブシィッ!!?」

「ナツキ!!」

全力疾走する俺に悲劇が降りかかる。
リッカーβが勢いよく横から飛び掛ってきたのだ。
雄たけびを上げて走っていた菜月は、奇妙な声を出して地面に叩きつけられた。

「いぃいいってぇえええぇ!!!ってひぎゃぁああああ!!!」

後頭部の痛みに涙目になり叫ぶが、目の前にいる桃色の化け物に菜月は悲鳴をあげる。
リッカーβは菜月をあざ笑うかのように、片腕をもたげる。
確実にその腕は菜月の首を狙って、振り下ろされようとしていた。

「この野郎!!」

「ちょ、それは、あぶ――」

俺の制止を無視してクリスは引き金を引く。
バァン――とショットガンの弾がリッカーβを吹き飛ばした。

助けてくれるのはいいが、散弾のひとつが俺の頭を掠めて地面にめり込んでいる。
あと数センチ右に頭があったら、当たっているところじゃないか!!

「走れ!!」

クリスの号令に文句を言いたいのを我慢して走る。
一番最初にたどり着いたクリスが扉に飛びつくと急いで開ける。

菜月とシェバはクリスによって開けられたそこに向かって飛び込んだ。
入ったのを目で確認した瞬間扉をクリスが勢いよく閉める。
閉められた扉の向こうからリッカーβが扉を叩く音が鼓膜を振るわせた。



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