流石に奴らはエレベーターの操作など出来やしないだろう。 という事は、追ってこないということだ。
「た、たすかったぁ……」
エレベーターの中で情けなく座り込んだ。 本当にあの数は死を覚悟したな……。
「大量に来られると対処のしようがないわね……」
「そうだな……」
三人とも肩で息をしながら、弱々しく頷いた。 ガチャン――とエレベーター特有の浮遊感が止まる。下の階に着いたようだ。 自動的に開いた扉の先には何もいないようだ。 だが、銃は手に持ったまま。
ちょうど突き当たりに色々な弾が大量に置かれていたので、これはラッキーと思って全て拝借しておいた。 そういえば弾を使い果たしたまま、銃を放っておいたままだった。 菜月はハンドガンの空になったマガジンを捨てて、新しいマガジンを挿入する。 クリスはショットガンの弾を、シェバはマシンガンの弾をポーチに詰め込んでいた。
そして進んでいくと、巨大、なんて言葉以上に大きな空間が目の前に広がっていた。 下は金網で出来ているようで、隙間から底の暗闇が見える。 上を見上げると果てしない上空に天井が見えた。 一体どれほどの距離があるのだろうと考えてしまう。
というか、自分が今地上に地下にいるのかも、分からなくなるほどの空間だった。
「ここは!?画像にあった場所だわ!」
「ここにジルが!?」
辺りを見渡すと、壁には人が一人分は入れそうなポットが何十個――否、何百個も取り付けられている。 ここのひとつにジルさんがいるのだろうか……? その時、ポットのひとつが音を立てて開かれた。
中から人が出てきたが、下は立つところもなにもない。そのまま、底の闇に落ちていってしまった。
「なんて、ひどい……」
底に落ちていってしまった人を見て、シェバが呟いた。 クリスも暫くそれを見ていたが、やがて中央にあるコンピュータに駆け寄った。 菜月もシェバもクリスに続いてそちらに足を向ける。
菜月がポカーンと見ている間にクリスはどんどんと操作していく。 色々なブラウザがどんどん開けていく。
そして、一人の女性が映し出されたところでクリスは声を上げた。
「ジル!!」
ジルさんは間違いなくここにいるようだ。 それを暫く見つめていると、機械がプーーーーと音を立て足場ががくんと動いた。 不意をつかれた菜月は体制を崩して、その場にしりもちをつく。
何事だと思っていたら、この円形の足場もエレベーターの機能がついていたようでどんどんと下がっていく。
「なんて数だ……」
信じられないほどの人の入ったポットが俺たちの目の前を埋め尽くしている。 クリスが絶句するのも分かる。
「世界中から人をさらって実験しているのか?」
「それって、犯罪じゃないの……?」
「奴らは手段を選ばない」
誘拐も簡単にする、ってわけか。 漸くエレベーターが大きな衝撃をたてながら、とまった。 2度目は流石にしりもちはつかなかった。
「何だ!?」
不穏な空気が流れ始めた。 赤いランプが点滅して目がチカチカする。 コンピュータの液晶画面も赤い色に染め上げられている。
「どうして?」
シェバが不審そうな顔で液晶を見ながら呟いた。 クリスも菜月も訳が分からず、首を傾げた――時だった、大きな黒い影が俺たちを覆いつくしたのは。 ばっといっせいに三人はそちらを見た。
「そういうことか!」
至極、冷静にクリスは銃を構えた。 菜月は驚きとビビリが混ざり合って、悲鳴を上げることすらままならない。 蟹のような鋏を持った大きな化け物――U-8が小さな目を此方に向けていた。 そして、徐にその鋏を上へもたげた。
これは間違いなく、攻撃の初期動作だ――! 向かってくる鋏を三人は転がる事で避け、銃をU-8に向けた。
「なんて硬いんだ!効いているのか!!?」
クリスがハンドガンで撃ちながら叫ぶ。 確かに頭を狙っても、効いているのかすら分からない。おそらく、効いていないだろう、この様子では。
「外殻は硬すぎてだめだ!弱点はないのか!?」
クリスの言うとおり弱点はないのか?いや、必ずあるはず!何か、弱点が!! 円形の足場を上手く利用して攻撃を避け、そして弱点を探すように発砲する。
U-8は軽々と体を移動させ、俺たちを追い掛け回す。
「ナツキ、クリス!あそこよ!足の赤い部分!!」
いち早く弱点を見つけたシェバがマシンガンを撃ち付ける。 しかし、図体がでかいだけあって弱点でもなかなかひるまない。 その上スピードもあるため当たりにくい。
三人の銃声がけたたましく鳴り響いた。 漸く効いたようでU-8がぐらりと体勢を崩して、だらりと口をあけたまま倒れた。 これは間違いなく反撃のチャンス!
「じっくり、味わいなさい!!」
シェバが手榴弾のピンを口で引き抜きU-8の開けっぱなしの口に放り込んだ。
ドォン――U-8の口内で手榴弾が火を噴いた。 U-8は口から大量の体液を噴出した。 どんな生き物でも内部は強くしたりなんてできない。
手榴弾がかなり効いたようでU-8は耳障りな悲鳴を上げながら底に闇に沈んでいった。
クリスとシェバはU-8が落ちていったのを確認すると銃をホルダーになおした。 と、同じタイミングでエレベーターが動き始めた。 あれがいたから、エラーが起きてしまっていたようだ。
ある地点まで行くとエレベーターはゆっくりと止まった。 ガコン、と音を立ててひとつのポットがクリスたちの目の前まで動かされる。 この中にジルさんがいるのか……。画像を見る限りではかなり綺麗な人だ。 ドキドキしながら、菜月の視線はポットに釘付けになる。
少しの蒸気を出して、ポットが開けられた。
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