- ナノ -

第十二話



少しばかり休憩して、俺たちはリッカーβがガラスを割って出てきた場所にあったドアをくぐり先に進んだ。
L字型の廊下を抜けた先には階段があった。
此処の廊下は奴らがいなかったのか、爪あとがなかった。

「さっきの奴……後数体いたら危なかった」

「ええ、乱戦は避けるべきね」

「ていうか、逢いたくもないし」

先ほどの奴らを思い出して、各々の気持ちを吐き出した。
まったく、あんなものを作り出すなんてどうかしてる。
階段を上りきり、角を右に曲がる。
ちょうどレバーがあったので、ついでに引いておいた。
レバーを引くと上にあった隙間から光が漏れた。
どうやら、蛍光灯のスイッチだったようだ。

明るくするのは別に悪い事じゃないだろうと思ってレバーは上げずにそのままにしておいた。

そして、突き当りのボタン式のドアを開け進んだ。

「――――ぃ、ぶは」

入った途端菜月は叫びかけたが、叫ぶより先にそれを察知したシェバに口元を押さえらた。
ガラス張りの空間が左右に設置されており、中には先ほどの奴らがうようよと存在していた。
しかし、此方には気づいていないようで、ぺたぺたと壁を這ったりじっとしていたりしている。

「此方には気づいていないようね……」

「あぁ、そうだな物音を立てずにいこう」

声を潜めて3人はこくりと頷いた。
扉をいつもより静かに音を立てずに開け、奴らを横目に見ながら通路を進む。


―――が、問題発生。
誰がこんな事をしたのかは知らないが、とりあえず俺はこんな事をした奴を恨んでおく。

「扉が壊れてるわ……!」

そう、奥に進みたいのに扉が壊れており押しただけでは開かなくなってしまっているのだ。
いつもなら扉ぐらい蹴破ればすむ話なのだが、今回はそうもいかない。
奴らが背後にいるせいで……。
少しの物音ならまだしも、扉なんぞ蹴破れば奴らは間違いなく気づいて襲い掛かってくるだろう。

一体だけならまだしも、5体も6体も一度に来られたら勝ち目がない。

「……しかたない、蹴破ろう。あけた瞬間奥に走れ」

「わかったわ」「了解……」

クリスは悩んだ末、今一番最良であろう答えをだした。
菜月とシェバはその答えを了承する。

「いいか、行くぞ……3、2、1、Go!!」

扉を蹴破ると同時に俺たちは走り出した。
後ろから、ガラスが割れた音が鼓膜を叩いた。速度を更に上げて、走る。

しかし、道は続いてはいなかった。

「い、行き止まり!?」

「違うわ、エレベーターよ!早くボタンを押して!!」

シェバに言われるまでもなく、菜月はエレベーターの下ボタンを連打する。
エレベータはこの階にとまってくれていなかったようだ。
しかも、運の悪い事に一番遠い階にあるようだ。

それを見たクリスは苦い顔をしながら、後ろを振り返った。
桃色の肉体が此方に歩みをよせているのが確認できた。
距離はそこそこあるもののエレベーターが来るまでには此方に来ているはずだ。

クリスがライフルを構えて少しでも足止めをしようと、撃ち込んでいく。
が、いかんせん数が多い。
シェバも苦渋の表情をしながら、マシンガンで天井に張り付いている奴らを落としていく。
近距離まで接近されたら、出す手がない。なんとか足止めしなくては。
菜月も二人に続いて、ハンドガンで応戦する。
体に当てても余り効果がないようなので、菜月は伸びてくる舌先に向けて弾を当てる。
舌にあたると痛いのか、聞き苦しい悲鳴をあげながらのた打ち回っている。
これなら、倒すまではいかなくとも時間稼ぎにはなる。

残り弾数にも注意しながら、菜月はどんどんと打ち続ける。
奴らもかなり距離を縮めて来た。
クリスもライフルで応戦するのは厳しいと感じたのかショットガンに持ち替える。

「く、エレベーターはまだか!!?」

「あともう少し!!」

エレベーターの点滅を横目で確認して俺はクリスに叫んだ。
半分より上に来ている、後もう少しでエレベーターが来てくれる。
いつもならエレベーターが来る時間などあっけないものなのに、今日は異常なほど遅く感じる。

早く!早く来てくれ、エレベーター!!

ドクンドクンと鳴る心臓の音と銃声が入り混じって煩い。
ある程度倒せたが、まだ数は多い。
奴らとの距離僅か3メートル。にやりと歯のない顔が笑ったような気がした。

ポーン

その時、場所に似合わない音が聞こえた。
エレベーターが到着したのだ。

「乗れ!!」

クリスの号令など聞く前に菜月の体はエレベーターのほうに回れ右していた。
一番早く乗ったシェバが皆が乗り込んだのを確認して『閉』ボタンを押し続ける。
一体のリッカーβが飛び掛ってきたが、その前に堅い扉が口を閉ざした。



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