- ナノ -

第十一話



何処かの施設の一室。
妖艶な女性とサングラスをかけた男性がソファーに座っていた。

「積み込みのほうは順調、もう少しで飛び立てるわ」

女性はケースから怪しげな注射器を取り出した。
男はそれを気にもせずに「そうか」とだけ返す。

注射器の針を確認するように指ではじくと、女は男の左腕に注射器をつきたてた。
そして、液体を戸惑いなく男の体内に注入した。

「あのプラーガってよく出来た商品ね。最初は半信半疑だったけど……」

男がソファーから立ち上がるのを見て、女も立つ。

「そして、ウロボロスも完成」

「トライセルでの地位も思いのままだな」

女を見る事もせずに、男は皮肉そうに言った。

「……あんなつまらないところ、もう興味ないわ」

女は男の肩に手を置くと、男の傍による。
それでも、男は表情ひとつ変えることもない。

「貴方にはパートナーが必要。貴方の世界で生きていく……私にはわかるの」

そういうと女はゆっくりと男ににじり寄り、男の体に手を寄せる。

「そして、私にはその資格がある……でしょ?」

そこで漸く男は女に顔を向けた。
煩わしそうに、女のあごを掴むと短く「そうだな」とだけ呟く。

女はあごを掴む男の手を振り払うと、嫌そうな顔をしたが、男は気にもしていないようだ。

「BSAAが進入しました」

そこへ第三者の声が飛び込んでくる。
男は少しばかり首を動かしてそちらを見た。

鳥のような仮面を付け、黒いコートを身にまとう者が立っている。

「貴方の友人クリス・レッドフィールドよね……気になる?」

女は挑発するかのように、顔を近づけ男に言った。

「計画は最終段階だ、遅れるな」

女の問いには答えず、機械的に男はそれだけを口にした。
先ほどから自分に何の興味も示さない男に、女は不機嫌そうに顔を歪めると
注射器の入っているケースを持つと、仮面の者と一緒に部屋から出て行った。


「後は奴を回収しなければな」

男は窓から見えるミサイルを眺めると小さく口元を上げた。



prev next