- ナノ -



「……うぅ、死ぬかと思った……」

本日2度目の台詞を呟き、菜月はいつの間にか目じりに滲んでいた涙を拭い取る。
クリスとシェバはそこまで、恐怖を感じてなかったようで一人涙目の菜月を見て苦笑している。
……なんて、いうか、二人とも人間じゃねぇよ……もう……。

シェバに促されて俺は立ち上がるが、足ががくがくしていたのは秘密だ。
もっと休みたい、と駄々こねてみたら――

「撃つわよ」

と笑顔でショットガンを構えて、脅された。
……シェバが黒いよ……ぐずん。


両サイドに引っ張ってくださいと言うばかりに垂らされた鎖を引っ張ってみる。
ガコン、と音を立てて鎖についていたサルの顔のような物が、下にさがり頷くようなポーズになった。

既に聞きなれてしまった、地響きがまたも聞こえる。
また罠かと危惧したが、今度は罠ではなかったようで壁が騒音を立てながら、階段へと化した。

長めの階段を2段飛ばしで下る。
がくがくした足に階段は非常にきつかったが、壁に手をつきながら下りたので何とかなった。

今までとは比べ物にならないほどの広い空間に出た。
道は入り組んでいて、何かを起動させないとそのままでは出れなさそうだ。
とりあえずは、まっすぐ進んでみる。

「あの、石像怪しくない?」

ところどころに設置された、色とりどりの石像は何かありそうだ。
クリスに言えば頷いて、一番近くにあった石像に向かう。

石像に近づいてよくよくみたら、鎖が二本垂れ下がっている。
これを引っ張れば、何らかのことが起こるはずだ。
……何が起こるかは、予想もつかないが……。石像、倒れてこないよな……。

石像から3メートルほど離れて、クリスとシェバが鎖を引っ張るのを傍観する。

ガコ――

鎖を引くと石像の首がなくなって顔がガクンと落ち込んだ。
どういう仕組みかはまったくもって分かりもしないが、石像が後ろに下がった。

「あら、宝石があるわ」

「え!マジで!?」

シェバの言葉に俺は石像が倒れる恐怖を忘れて、傍に寄った。
確かにシェバの手には四角く削られたサファイアがある。
初めて見つけた宝石に俺は目を輝かせて、それを見た。

「欲しいなら、あげるわ」

「いいの!?ありがとう!」

特に宝石に興味がないらしく、シェバはサファイアを俺にくれた。
菜月はサファイアを受け取ると、光に透かしてみる。

曇りひとつなく透き通るそれに、菜月は目を輝かせる。
・・・本物!本物の宝石!!キレーだなぁ!
俺は丁寧にサファイアをハンカチで包むと、ショルダーバックにしまいこんだ。

「ほら、ナツキ行くぞ!」

「あぁ、ちょ!置いてくなって!」

既に十数メートル先に行っているクリスに、菜月は慌ててついていく。
こんなところでクリスとシェバに置いてかれたら、迷子になっちゃうよ。
つーか、運が悪いと餓死しちゃうじゃん!!


先ほどの鎖を引いたお陰で出てきた階段を上り、ちょうど正面にあった緑色の石像の鎖を引く。
同じように腕が下がって、石像が後ろに下がる。
それを合図にさっきのぼった階段が変形し、通路へと形を変えた。


今し方出来上がった通路を通り、それからいくつかの像の鎖を引っ張って先へと進んだ。
時折、敵に襲われるというアクシデントもあったが、難なく撃退できた。

「まだ、像あんのかよ……」

赤い像を見上げて、俺は文句を垂れる。
何度同じ行為を繰り返しただろうか、昔の人どんだけ石像作ってんの!?

ぶつぶつ文句を言っている菜月を放置して、クリスとシェバが鎖を引く。

今までよりも大きな地響きが鳴り、真ん中に長い階段が出来上がった。

「これで、最後かな?」

「おそらくな」

気を緩めていたのがいけなかった。

――ドスン

「どわーーー!!!でたぁああぁあ!!!!」

目の前に降りてきた何かに俺は腰を抜かす。
――ってこいつ!!見た事あるぞ!確か……。

「鉱山で崖に落ちたんじゃなかったっけぇえええぇ!!」

鉱山で殺したはずの化け物――ポポカリムが俺の目の前で爪を煌かせた。
ヤベェ!と思った瞬間に勢いよく襟元を引っ張られ視界が反転する。

ガン――

「あでっ……!」

俺の頭があったところに、ポポカリムの鋭い斬撃がよぎる。

「ナツキ!早くたって!逃げるわよ!」

寝転がっている菜月に、シェバが声をかける。
あぁ、さっき襟元引っ張ったのシェバだったのね……だから微妙に悪意が……。
俺は急いでその場から立ち上がり、ポポカリムから逃げる。

さっき出来上がったばかりの階段を3段飛ばしで駆け上る。
そうでもしないと、ポポカリムに追いつかれてしまいそうだ。

奇声を発しながらポポカリムは階段に爪を立てながら、どんどんのぼってくる。

「飛び込むぞ!」

階段を上った先にある小さな通路。
あそこならポポカリムのようなでかい図体はは入れまい。

俺たちは速度を上げると、通路になだれ込んだ。
猛スピードで俺たちを追っていたポポカリムは、そのまま壁にぶち当たりあえなくお陀仏した。





prev next