いつの間にやら蜘蛛の姿もなくなり、俺たちは立てかけられていた梯子を上り洞窟の内部に進んだ。 重たそうな扉を開けた先に見えた風景に俺はあんぐりと口を開けて見とれた。
扉の向こうにはどれぐらい広いのだろうと思うほど大きな古代遺跡があったのだ。 洞窟の奥がこんな風になっているなんて誰が予想しただろうか? クリスとシェバも驚きを隠せないようだ。
「こんな所があったなんて……」
「最近でも人の出入りはあるようだな」
「へ?何で分かるの?」
冷静にそういったクリスに聞き返した。 俺にはどこをどう見たらそういえるのかさっぱり分からない。
「ほら、そこの松明火がつけられているだろう?」
「ん、あぁ、うん」
クリスが指を差した先には確かに赤々と燃え上がる松明がある。 菜月はそれを見て、クリスに首を振って頷く。
「何百年も前に付けられた炎が今も燃え続けるなんて事はありえない。という事は――」
「あぁ、なるほど。最近誰かが入って火をつけたって事か」
漸くクリスのいった言葉に、納得が出来た。 それにしてもクリスもよくそんなこと短時間で分析できるよなぁ……。 とてもじゃないが俺にはわからない。
「この先にアーヴィングの言う答えなんてあるのかしら?」
「……嘘は言ってないはずだよ、きっと」
だから、ここの奥に答えがあるんだ。確証はない、ただの俺の当たるかどうかも分からない直感、予想。 でも、なんとなくこの先に答えがある、って感じるんだ。 何があるのか、俺にも分からない。知りたいのか、知りたくないのか、俺にはわからない。 正直少し、怖い。けれど、知らなきゃいけないんだ。
俺たちは広い広い古代遺跡に足を踏み入れた。
松明に火がついているところをたどって慎重に奥に進んでいく。 蝙蝠の羽音が静かな遺跡に響く。 時折落ちている木の枝を踏みビクついたが、クリスとシェバには気づかれなかったようだ。
本当に恐ろしいほど、遺跡は無音だった。 集落とかにいたときは何かしらマジニの襲撃があって、騒音だったからこの無音が不安を煽る。 てか、なんかそろそろ来そうなんだよね……いや、ただの勘だけど。
きょろきょろ辺りを見回したが、怪しい影なんてどこにもない。 やっぱり俺の勘は当たってないみたいだな、と思ってクリスとシェバが渡った小橋を俺も渡る。
『うぎゃぁうがっ!!』
「へ?――うわぁっ!!」
変な声が聞こえたほうを見た瞬間、小橋が破壊された。 足元の変な浮遊感に俺は体勢を崩した。 先に渡りきっていたクリスとシェバの俺の名前を呼ぶ声が聞こえたけど、今は返事をしてる暇なんてない。
近くなる地面に、俺は目を硬くつぶって次来る痛みを迎え入れた。
「うぐぅ!!」
胸を叩きつけられて、一瞬息が詰まる。 強く打ち付けた肋骨がずきずきと痛む。
……俺、最近ホント怪我する事多くね。
うつ伏せの体勢のまま俺は無言でそう思う。 刺されたり、鼻打つし、頭打つし、胸打つし……次、腰打つかな……? その半分は自分のせいではあるが、運が悪いにもほどがあるものだ。
自分の上でぎゃあぎゃあとマジニの喚き声が聞こえる。 顔、上げれねぇ……怖い……。 おそらくクリスとシェバが射撃してくれているんだろうが、数が多いみたいだ。 死んだふりをしたまま、俺は銃声とマジニの気配がなくなるのを待つ。
数分後――
「ナツキ!」
マジニの奇声も聞こえなくなり、俺は緩慢な動きで体を起こした。 俺が起き上がるのを見たクリスが安堵のため息をついたのがわかった。 ごめん、と小さく消え入りそうな声で謝ったら、何で謝るんだ、と返された。
「とにかく、無事でよかった」
「俺タフだからね」
そういったら、信じられないくらいの、とシェバが横から付け足した。 否定できないから、曖昧に笑って俺は頷いた。
先ほど落ちたときにすりむいた膝に、救急スプレーを吹き付けて消毒しておく。 絆創膏も貼りたかったが、残念ながら持っていないので、そのまま放置。 ズボンに触れるたび、ぴりぴり痛みが走るけれどないものはしょうがない。
痛みを無いものにしようと努めながら、俺は宝箱の様な物を見て目を輝かせた。
「な、コレってなんなんだ?」
「さぁ?さっき開けたら宝石が入っていたけれど」
宝石、という単語に菜月はもっと目を輝かせた。 宝箱!まるで、冒険みたいだ! ガキっぽいと言われても気にしない、ファンタジーみたいな事が好きだから。
クリスとシェバに手伝ってもらって重たい箱の蓋を押して開けた。
「あれ、空だ」
中をのぞいたのだが、何にも入っていない。 俺たちより前に入った人がとってしまったのだろうか? 期待してたぶん何も入っていなくてがっかりした。
「ん?」
地響きに首をかしげて下を見た。――足元がなくなっていた。 ぐら、と揺れる体。
空中で体勢を整える術を持っていない俺はまたも、地面とキスする羽目となった。 二人は俺の隣で上手く着地している。
人間業じゃねぇ……どうやって着地してるんだよ……!
「ナツキ、大丈夫か?」
クリスに差し伸べられた手を握って立ち上がる。 どうやらあの宝箱は、宝箱じゃなくてトラップだったらしい。 ……ホント、俺運悪いな……さっきから言ってるけど! 何か俺悪い事したかな……。
口を服の袖口で拭きながら、落ちた場所を見た。 埃臭い上に蜘蛛がわらわらといるし、出口であろう場所は閉まったままだ。
また蜘蛛がいる事にげんなりとしながらもハンドガンを持った。 今度は飛び掛られるのに注意をして、蜘蛛を撃ち殺す。
タン――
最後の一匹を殺すと同時に、出口を塞いでいた扉が開いた。 どういう仕組みなんだろ、アレ。
開いた扉の先は、広々とした空間が広がっていた。 道を塞ぐ敵をクリスが気づかれないうちにライフルで撃ち、敵がいなくなったところで先に進む。
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