- ナノ -

第十話



俺たちはジョッシュの待つ船に乗り、アーヴィングの言っていた洞窟に向かった。

「本当に大丈夫なのか?ナツキ」

「ん?あぁ、平気平気!」

着替えるタイミングなんてないし、第一、着替えれる服を持っていないため、
俺の服は血色に染まったままだったのだ。
一見重傷そうに見えるが、俺はいたって元気なのだ。
勿論、刺された時は痛かったが、今はまったくと言って良いほど微塵も痛くない。
心配そうに何度も聞いてくる、ジョッシュに俺は笑って返した。

洞窟は意外に簡単に見つかり、船は速度を落としてゆっくりと洞窟に侵入した。
奥が深いらしく、なかなかそれらしきものが見えてこない。

「こんなところに本当にあるのか?」

クリスがぼやくように呟いた。
クリスの呟きを聞いたシェバが俯けていた顔を上げる。
ちょうど上げたときに何かに気づいたらしい。

「あれ!さっきの奴のボートだわ」

シェバの指差す先を見た。
あのボートはたしか、黒いコートをまとって鳥みたいな仮面付けてた奴が乗ってた……よな。
ってことは、あいつもここに来たって事か。じゃあ、ここに何かあること確実だな。

俺たちは簡素な桟橋に船を寄せると、陸に上がった。

「本当に行くんだな?」

「あぁ」

「クリスの事だけじゃない、ウロボロス計画の事も気になるの」

「俺も、知らなきゃいけない事があるんだ」

ジョッシュの最終確認に、俺たちは各々の理由を述べた。
理由なんてなくても、俺たちはここで別れたりなんてしないけど。

「止めても無駄みたいだな」

ジョッシュは困ったように口元を上げた。
さすが、俺たちの性格をよく理解していらっしゃる。
そんな途中で俺たちは止まれない。走り始めたら止めれない暴走列車みたいに。

「俺は本部に撤退命令の撤回と応援の要請を掛け合ってくる……それまで、死ぬんじゃないぞ」

それだけ言うと、ジョッシュは船を半回転させ、洞窟から出て行った。
俺たちはジョッシュが洞窟から出て行くまで見送っていた。


「俺たちも、いかなきゃな」

「そうね」

俺たちは奥に進むためにジョッシュとは正反対の方を向いて歩き出した。
敵も出ず、無言で洞窟内を歩く。

「アーヴィングの言ってた、エクセラって名前……」

「知っているのか?」

壷の中を覗き込んでいた顔を、菜月はそちらに向けた。
曖昧な表情をしながら、シェバがクリスに答える。

「トライセル・アフリカの支社長に同じ名前の女性がいるの」

「そいつがアーヴィングと繋がっていると?」

「まだ、確証があるわけじゃないんだけど……」

まぁ、怪しいっちゃ怪しいな。
俺は壷の中にあったハンドガンの弾を取り出し、箱についている埃を取り払った。

「トライセルか……もしそうだとしたら、奴らはアフリカで何を企んでいる?」

「この先に進めばわかるはずよね」

「ああ、そうだな」

拾った弾をハンドガンに詰め込み、その辺にあった焚き火に空になった箱をくべ
先を進む、二人の背を追った。
洞窟の天井のところどころに開いた穴から外の光が入っている。
そのお陰で洞窟内部は火をつけなくても、明るく照らし出されている。

そこらたしに転がっている人であったろう白骨体に、引きつり笑いを隠せない。
一つだけならまだしも、3つも4つもあるからいただけない。
白骨がいつ動き出さないだろうかとびくびくしながら、出来る限り離れて歩く。

ちょうど洞窟の広場に差し掛かった、その時。
土の中から砂埃を巻き上げて、大きな――といっても精々40pぐらいだが――蜘蛛が数匹飛び出してきた。

「うぉあ!!蜘蛛っくもぉおおお!!??」

「ナツキ、ビビリすぎだ」

過剰にビビる菜月にクリスが冷静に突っ込む。
シェバにいたっては菜月に何も言う事もなく、蜘蛛を始末している。
……だって、俺、蜘蛛嫌い……。
わらわらとわいて出てくる蜘蛛の集団に、鳥肌を立たせながら出来るだけ蜘蛛を見ないように目を伏せながら、駆除していく。……気持ちわるいぃいいいい!!!!

あの4本ずつついた手足――そして、かさかさ動く気持ちわるさぁああああ!!!
んでもってあの体中から生えた硬い毛!!!うぎゃぁあああ!!!
……うぇ、考えて本当に気持ち悪くなってきた……ぐす。

「……ぎゃぁあああ!!!――へぶ、」

突如飛び掛ってきた蜘蛛を、マト○ックスの如く避けた。
――のはいいが、勢いよく頭を打ち付ける。

何やってるのよ、って感じのシェバの冷めた視線が突き刺さって痛かった。
シェバの視線に気づかない振りをしながら、俺は打った所を摩りながら立ち上がる。

「おっちょこちょいだな、ナツキは」

呆れ交じりの苦笑をして、クリスは菜月の頭を撫でる。
そんなことされたことなんて、誰かにされたことなくてなんだか菜月はくすぐったい気持ちになった。



prev next