- ナノ -


俺たちが来たのを見計らって、アーヴィングが此方に歩みを寄せた。
すぐに俺たちは銃の照準をアーヴィングに当てた。

「さっさとくたばってりゃ良いものを!人の顔に泥を塗りやがって!
 あいつら、誰のお陰で計画が進めれたと思ってんだ……金を集めたのは、すべて俺様だぞ!」

あからさまに不機嫌全開、苛立ちMAX、怒り爆発、って感じで此方を睨みつけるアーヴィング。

「どいつもこいつも……馬鹿にしやがって……」

アーヴィングは手に持っている筒のような物に目を向けた。
それが一体なんなのかはここからじゃあ分からないが、よくない物に違いない。

「諦めなさい!」

シェバがそういって、引き金に指をかけたときだった。
アーヴィングの行動に俺は、うろたえた。

「え、な、何やって……!?」

自分の首筋に、筒のような物を突きつけたのだ。
予想もしない行動に俺は目を見開いた。

暫く唖然としながら見つめていると、突然アーヴィングは苦しみ始めた。
筒を取り落とすと、アーヴィングは首筋を押さえて四つん這いになった。
その様子を見て、思わず俺は駆け寄る。
クリスとシェバのとめる声なんて聞こえなかった。

「ちょ、な、大丈夫ですか!?」

敵にこんな事聞くのはおかしいと思うが、それでも聞かずに入られなかった。
苦しそうな人、ほっとけないんだもん!!

「へ、自分の身の心配したら、どうだよ」

ドス―――突き刺さる何か。

ナツキ、と俺を呼ぶ、クリスとシェバの声が耳に煩いぐらいに響いた。
異常なほどの冷や汗が、体中から出てるのが分かる。
ずぶと体に刺さった何かが抜け、アーヴィングが視界から消えた。

ぐらり、と揺れる体に一体何が起こったのかわからない。
ただ、痛くて、熱くて……そして、どことなく寒い。
前のめりになって、地面に倒れた体を起こそうとしても力が入らない。

「ナツキ!ナツキ、しっかりしろ!」

「く、くりす……お、れ……」

うつ伏せになっていた体を仰向けに起こされた。
クリスの青ざめた顔が一番に目に入る。見た事もないクリスの表情に、少しだけ笑えた。

「喋らないで!傷が……」

「しぇ、ば……お、おれに、か…まわ、ず……あーう"ぃ……んぐ、を……」

シェバの背後に見えた大きくて危険そうな触手に俺は上手く動かない口を動かしていった。
クリスとシェバは少しばかり考えると、俺を攻撃の当たりにくい船の橋に寄せるとアーヴィングの抹殺に向かった。

クリスとシェバの青ざめた顔を思い出して、われながら馬鹿なことをしたと思う。
いつの間にか降り出していた、大粒の雨が俺に冷静さを取り戻させていた。
何故、あんな事をしたのか分からない、あのときの俺はどうにかしてたんだ……きっと。

お腹を刺された割にはクリアな視界で、明瞭な思考が出来る。
大怪我して、目が冴えてんのかな……俺。
というか、痛みも……なんか、引いてるような……気がしないでもない。

ふと、気づけば激しい戦闘音が止んでいる。
頭だけをゆるりとそちらに向けた。
アーヴィングのなれ果てが、船の中央に倒れこんでいた。

俺はダルイ体を持ち上げて、体を引きずってそこに向かった。

「何をたくらんでる!!」

「エクセラめ……二流品を押し付けやがって」

アーヴィングは得体の知れない物がぼこぼこと体のいたるところから飛び出し、腕も足もなくなってしまっている。
辛うじて、顔と胴体までは何とか判別できた。
菜月はそれに顔をしかめながらも、クリスとシェバの傍に寄った。

「エクセラ?」

「この実験施設はどこだ?ウロボロス計画とは!?」

モバイルをアーヴィングに突きつけながら、クリスが半ば怒鳴るように聞く。
あのジルさん――だったかな、が写ってた画像を見せているのだとわかった。
アーヴィングはそれで、俺たちの――というよりか、クリスとシェバの所属に目星がついたらしい。

「BSAAか……めでたい連中だ。もうすぐ世界のバランスが変わるってのによぉ……」

「世界のバランスが変わる?ウロボロス計画のことね?」

鸚鵡返しにシェバが尋ねる。
それに、アーヴィングが愉快そうに返した。

「今更知ってどうする?……手遅れなんだよ、ウロボロスが世界を変えちまう」

それだけ言うと、アーヴィングは俺に顔を向けた。

「お前にゃ、悪い事したな……代わりに一つ教えてやる、お前はウロボロス計画の一端を担ってるんだ」

「ど、ういう、意味だ?」

ツキン――と頭のどこかに痛みが走った気がした。
倒れこむように、アーヴィングの傍にしゃがみ込み、聞き返す。
俺は……ウロボロス計画の一端を担っている?どういう意味なんだ……?
アーヴィングの言っている言葉の意味がよくわからなかった。

「そんままの意味だ……すべての答えはこの先の洞窟にあるぜ――がっ!!」

「アーヴィング!」

アーヴィングは体を大きく痙攣させると、そのままどろりと溶けてしまった。
少しだけ残った、アーヴィングだったモノに菜月は視線をそらした。

「これからどうするの?」

「とにかく先に進むぞ」

背後でそんなやり取りがされているのを、聞きながら俺はノロノロと立ち上がった。
随分といろんなことがありすぎた。素人の俺には重すぎて、支えきれないほどのたくさんの事。
アーヴィングの言っていた事も気になる。おそらく――いや、きっと、重要な事なんだ。

「ナツキ、体は大丈夫なのか?」

「、なんとか、ね」

血まみれになった自分の服を見て、顔を引きつらせながらも笑ってそういえた。
いつの間にか、不思議と体は痛くもないし、痒くもない。
全快、というわけではないのだが、動き回れる程度にはなっている。

そんな菜月に、クリスが安堵したようにため息をついた。

「心配かけさせやがって!」

「わ、ちょ、本気でコエーから!!」

たぶん、冗談だと思うのだが銃を突きつけられて、俺は引きつった笑いを浮かべて銃を遠ざける。
クリスとじゃれる俺を見てシェバが安心したように呟いた。

「大丈夫そうでよかった……ホント」




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