- ナノ -

第九話



ジョッシュと別れて、先に進むと海が見えた。
俺たちの任務はアーヴィングを捕らえる事。

おそらくアーヴィングは船で逃げるはずだから、ここにいる。
桟橋を全力疾走して、船の元に駆け寄った。

「いたわっ!」

白いスーツ姿のアーヴィングが船の上にいた。
その横で黒いカラスのような仮面を付けた奴がモーターボートに飛び乗っている。

「あいつは……?」

言葉を交わす暇もなく、奴は船を発進させた。

「いいところに来たな!これからイカした"ショー"の始まりだ!楽しんでけ!」

にやにやと下劣な笑みを浮かべてそれだけを言うと船で何処かにいってしまった。
クリスが横で待て!と叫んでいたが、待つ奴なんていない。

「クソ!!」

クリスが悔しそうに悪態をついた。
その時、さっと空気が変わった。騒がしくなった後ろに俺たちは過敏に反応して振り返った。

「ゲ、」

思わず漏れた言葉がこれだ。
こちらに向かって走ってきているマジニが見えれば、誰だってこういうはずだと、思う……多分。

『シェバ、聞こえるか!脱出用のボートを確保した!反対側の桟橋にいる!急いでこっちに来い!』

通信機から聞こえたジョッシュの声に無事でよかった、って思った。
少し離れていただけなのに、生きている事に安堵する。

通路を遮るマジニたちをクリスがショットガンで一掃する。
クリスが倒し損ねたマジニを俺とシェバがハンドガンで着実に倒していく。

施設から小さな爆発音が響いている。
タイムリミットは刻一刻と迫っているようだ。
おそらくアーヴィングの言っていたイカしたショーってのはこのことなんだろう。
……楽しくもなんもねぇえええぇえ!!

桟橋を突き抜けてもう少しでジョッシュの元にたどり着く。

「ナツキ!ストップッ!!爆弾があるわっ!」

シェバの鋭い注意に菜月は体をくの字にしながら止めた。
後一秒注意が遅かったら、爆弾に直進していただろう。木っ端微塵に飛び散る自分を思い浮かべて顔を蒼くさせた。

「ひぃいいいぃいっ!!あ、あぶなっ!!」

誰だよ!こんなところに爆弾仕掛けた奴!!(※マジニです)
壁際まで逃げて、菜月は爆弾を睨んだ。
明らかに悪意がこもってるぞっ!!(敵だから当然です)

プンプンと腹を立てながら、俺は爆弾をハンドガンで打ち抜いた。
バン、と小規模の爆発を起こして爆弾はなくなった。
危険のなくなった通路を通って、ジョッシュの元に駆けつけた。

マジニはどうしても俺たちをここから逃がしたくないらしく、しつこく追いかけてくる。

「し、つ、こ、いいぃいぃいい!!!」

堪忍袋の尾が切れて、がむしゃらに銃を撃ち放つ。
タァンタァンタァン!
追いかけてきていた三体のマジニの頭を吹き飛ばす。何時も以上の狙いのよさだ。

「よし、こっちだ!急げ!」

ジョッシュの声に促されて俺たちは船に飛び乗った。
船が発進すると同タイミングで、大きな音が施設の方から聞こえた。

地を揺るがすような爆音に包まれながら俺たちは無言で船の上でその光景を眺めていた。


「ホントにあんなでっかい建物爆発するなんて……」

信じられない、と俺は先ほどの爆発を思い出しながら呟いた。
俺たちはあの爆発から逃げ、海の上にいた。
マジニも流石にこんなところまでは追ってこないらしい。
こんなところまで追ってこられたら、たまった物じゃない。

「で、アーヴィングは?」

ジョッシュがそう、切り出した。
途端にシェバもクリスも俺も、ジョッシュから目をそらした。

ジョッシュはその様子に、事態を悟り数回首を上下に揺らす。

「そうか……まだ、遠くへは行っていないはずだ」

「……ジョッシュ」

「すまない……」

それは、まだアーヴィングを追う、と言う事だ。
ジョッシュは気にするな、と言う風に笑い、操縦席に着こうとしたときだった。

タン――

と船の淵に矢が刺さる。

皆の視線が矢の飛んできたほうを見た。
同じように船を猛スピードで走らせて此方に向かって来る、マジニの姿。
ついでにボウガンを構えたマジニも船に乗っている。

「うっそぉ……どんだけ……」

しつこいにも、ほどがある。
俺は若干顔を引きつらせながら、マジニたちを見つめた。

援護を頼む、といってジョッシュは船の操縦に専念する。
俺はすぐさま立ち上がると、銃を構えた。
しかし――

「うぅうぅう……ね・ら・い・にくいぃいいい!!!」

なにぶん猛スピードで進む船の上。その上、相手も動く船の上。
狙いが定まらない。
うがーー!!!と喚きながらも、ジョッシュに向かって飛んでくる矢を落とす作業は忘れない。

たまたまジョッシュを見たら、偶然目が合った。
クス、と小さく笑われた。……うぅ、酷いぜ。

敵の船ばかり注視していたら、ピリ、と頬に痛みが走った。

「いっ?」

なんだと思って、頬に手を触れた。手をぬらしたのは赤い液体。
――を確認したのと同時に船の前方から、爆発音と水柱がたった。

大きく揺れた船体に、足を踏み外しそうになりながらも俺は振り返った。
手榴弾を投げれるだけ投げるマジニの姿。

投げられた手榴弾が船の左右で爆発を起こす。

「ぅをぉおぉおお、お、落ちる!!」

傾く体を気力だけでしゃがみ込ませて、船から投げ出される事だけは回避する。
……そのせいで船の上で無様な転げ方をする羽目になった。

「ぃいいいっっっっってええぇえええ!!!!!!」

転んだ拍子に船の淵で鼻を強くぶつけ、涙目になりながら悶えた。
今までより、強めに打ったらしく激痛が鼻を襲う。
シェバとクリスは忙しなく銃を撃っている。
忙しそうなのは分かるが、今は襲い掛かるマジニよりも鼻の痛みのほうがヤヴァイ!

心の中で"いってぇええ!!!"と叫びまくりながら、痛みが収まるまでうずくまる。

「おいおい、大丈夫か?」

心配と、少しばかりの呆れを織り交ぜながらジョッシュが尋ねてきた。
……この悶々としているのを見て大丈夫だと思うかぁああ!!!??
とは、心の中だけの叫びで――

「あはは、だ、大丈夫……(だと、思う)」

とか、強がってみたり。
したが、やっぱり鼻は痛くて、正直、俺の鼻折れてねぇよな?とリアルに心配する。



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