- ナノ -


カシャン、と音を立てしまったドアに一安心した。

「クリス、弾ちょーだい」

「ん、あぁ、ほら」

ハンドガンの弾の入った赤い箱を受け取り、菜月はハンドガンに弾を込めた。
はじめはなかなか上手く入れれなかったが、それなりに早く弾を込めれるようになって来た。

ハンドガンに入りきらなかった、余りの弾はショルダーバックに入れる。

ガタン、軽く振動してエレベーターが止まった。
上の階についたようだ。

「急ぐぞ!」

「わ、置いてかないで」

エレベーターのドアが開くと同時に、飛び出したジョッシュたちに俺は一足遅れながらエレベーターを出た。
細い通路の先にある梯子の上でボウガンを構えたマジニがいる。

ジョッシュはそれをいとも簡単に撃ち落すと、颯爽と梯子を上り始めた。
さすが、というべきか、行動が早い。そこがBSAAさんと俺との違いだろう。

一番最後に梯子を上る。
使った事のない筋肉がキリキリ悲鳴を上げる。
腕の筋肉死ぬぅうぅう!!二の腕のたるんたるんの脂肪が悲鳴を上げてるぅうう!!

100メートル走を全力疾走で走るだけで疲れる俺がここまでこれた事自体が奇跡だ、と思う。
高いところから飛び降りたり、逃げるために走り回ったり……俺、よく生きてるなぁ……(遠い目)

梯子を上りきって、一息つく、が――

「ちょ、皆はやっ!!」

既に向こう側の壁に行ってしまっている3人に俺は置いていかれてはたまらない、と休憩する間もなく走った。
壁伝いに作られた通路は細く、手すりがなかったら落ちてしまいそうだ。(俺なら落ちる)

「クソッ!ここもロックされてる!!」

そんなジョッシュの声が聞こえてきた。
俺は段差のある通路の梯子をとろとろと上る。

キュイン!

聞き覚えのある嫌いな音にがちっと体が硬直した。
梯子のちょうど真ん中で菜月は、後ろを見た。

「うぎゃあぁああぁあ!!!」

それからの行動は菜月とは思えぬくらい早かった。
けたたましい音を立てながら梯子を登りきり、上ってこようとするチェーンソーマジニと雑魚マジニを撃ち落す。

だが、チェーンソーは軽々としたジャンプで菜月の目の前に降り立ったのだ。

「は、あぁああ!!!かるっ!!そんな飛べるっ!?」

キュウゥウウイン!

そんなの余裕のよっちゃんだぜ!なんて言うかのようにチェーンソーを鳴らす奴。
はぁ?ンなこと言う訳ないって?ほっとけ!!

とにもかくにも今はこの距離をどうにかすべきだろっ!!
手を伸ばせば気色の悪いチェーンソーマジニの腹に触れそうなくらいだ。
肌の色わりぃなこいつ……じゃなくて、バックステェッップ!!

チェーンソーが振り下ろされる前に、後方に下がって距離をとる。

「ナツキ!ロックが解除できたわ!早くこっちに!!」

「わ、わかった!」

ちょうど呼ばれて、目の前のチェーンソーに目もくれず菜月は急いでそっちに行った。
キュイィン!と怒ったような雰囲気を背中に感じ取りつつもクリスたちの元に急いだ。

はやく!、と自分をせかす仲間の元に菜月は駆け込んだ。
同時にバンッとしまる扉。
閉ざされた扉の向こうからチェーンソーの音が聞こえるものの、思ったよりこの扉は頑丈なようだ。

皆の顔に少しばかりの疲れと安堵が見え隠れした。
まだ、敵地を出たわけじゃないが、皆緊迫した空気から抜け出せてほっとしたんだろう。

「大丈夫か?」

「な、なんとか、」

息も絶え絶え、なんて表現が良く似合いそうな感じだと思う。
折角乾いた服がまた汗でぐしょぐしょになっている。気持ちの悪い事この上ない。

「アーヴィングはここを爆破させて逃げるつもりだ」

「爆破?」

こんな大きな施設を爆破なんて出来るのか?と思い聞き返す。
あぁ、とジョッシュは頷いた。聞き違いではなかった。

「俺は脱出経路を確保する」

「俺たちはアーヴィングを追う」

どうやらまた別行動になるみたいだ。
ジョッシュさんもよく一人でこんなところを探索できるなぁ……。
俺には到底無理だ。クリスとシェバと一緒にいても怖いのに……。

「あぁ、頼んだぞ」

ジョッシュさんはそれだけ言うと、先ほどとは別の扉を開けた。

「あの!」

気づいたら、声をかけていた。
どうした、と聞き返されてしどろもどろに菜月は言った。

「気を、付けてください、必ず、生きて帰ろう」

「あぁ、ありがとう」

ジョッシュさんは俺に笑いかけると、今度こそ扉の奥に消えていった。

必ず、生きて帰る。
俺に帰る場所があるのかどうか、は分からないけれど、とりあえず今は生きる事だけを望もう。





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