息切れして、もう走れねぇって位になって漸くチェーンソーマジニは地に伏した。 菜月は肩で息をしながら、体温の上昇した体を冷やすために服をあおぐ。
俺とは対照的に息切れ一つしていない2人がなんだかむかつ――じゃなくて、うらやましい。 本音が漏れそうになるのを堪えて、菜月は重い体を引きずるようにして歩く。
先ほどの炎に塞がれていた道は通れるようになっている。 俺たちはアーヴィングを追うため、その道を突き進んだ。
!マークの描かれたシールが張られた危険そうな赤い扉を開けた。 細心の注意を払って、俺たちは内部に侵入する。
ハンドガンを構えて音も立てずに歩く。 誰も――いないようだ。 シェバとクリスの後ろをゆっくりとついていきながらそう感じた。
カチャ――
普段なら聞き逃してしまいそうな小さな音もこの静かな空間ではよく響いた。 わずかな音に俺たちはそちらに振り向いた。
敵だったらどうしよう、とか情けない不安を感じながら、俺は後ろを見る。 残念ながら、それは気鬱だったようだ。 見覚えのある黒人さんに構えていたハンドガンを下ろした。
「……ジョッシュ!?」
「シェバ!?」
正直、生きているとは思わなかった、といった雰囲気でシェバは黒人さんの名を呟くように呼んだ。 ジョッシュさんの方も、シェバが生きていた事に驚いているようだ。
「生きてたのね!大丈夫!?でも、どうしてこんなところに?」
「港での戦闘中に捕まってこの様だ」
捕まった!!?よくそれで生きていたものだ。 俺は心の中でジョッシュさんを感嘆しながら、会話に耳を傾けた。
「シェバ、他の連中は?」
ジョッシュさんの一言で、俺たちは顔を見合わせて俯いた。 デルタチームの皆は――殺されてしまったんだ。 あの巨人に。
目の前の死を信じる事が出来なくて、あのときの事は曖昧な記憶しか残っていない。 でも、目の前で殺された瞬間は鮮明に覚えている。 鼻を掠める血の臭い、頬についた紅色の血、体がすくんで動けなかった。
「クソッ!!」
俺たちの雰囲気で悟ったジョッシュさんは悔しそうに声を上げた。
「もう、私たちだけなの」
「何故撤退しなかった!こんな状況じゃ……」
こんな状況じゃ……皆殺されるのがオチだって言いたいのかな? でも、誰かがこの事態を止めなくちゃ、いずれ世界は闇に覆われてしまうんだ。 撤退なんて、できない。
「まだ、やる事が残ってるんだ」
「駅でもらった情報に実験施設の画像があったでしょ。そこに、クリスの仲間がいたの」
クリスもシェバも撤退する気なんてないみたいだ。 ……勿論、俺も。
「仲間が?」
「アーヴィングを捕まえてその事を確かめる」
クリスがそう言った瞬間だった。
ガサガサッ―――
誰かが走る音がした。 さっとジョッシュさんが銃をすばやく構える。 ガシャーンッとエレベーターのドアがしまる音がわんわんと反響した。
「話は後だ」
ジョッシュさんの言葉に俺たちは頷き、各々の銃を構えた。 それと同時に窓ガラスをぶち破って、マジニが入ってきた。
勢いよくこちらに向かってくるマジニをクリスが撃ち抜く。 二階から飛び降りてきたマジニをシェバが撃った。 同じようにシェバの後ろに飛び降りてきたマジニをジョッシュがしとめる。
「あぶないっ!」
クリスを狙って武器を振り上げたマジニを俺が倒した。
「シェバ!援護を頼む!」
「急いでくれ!」
ジョッシュさんはそういうや否や、エレベーターの横に備え付けられていた機械に飛びついた。 あぁ、そうかエレベーターのロックを外しているのか、菜月がそれに気づいたのはある程度マジニを撃ち殺してからだった。
陣形としては俺がジョッシュさんのすぐ傍、クリスとシェバが俺の周り、といった風だ。 俺も出来る限り、クリスとシェバの援護をする。
タァンタァン――
銃声が何度も響き、マジニの怒声か何か訳の分からない叫び声が耳に痛い。 解除はまだかと菜月はチラリと後ろにいるジョッシュを見た。
残念ながらジョッシュはひたすら機械のキーを叩き続けている。 もう暫く掛かりそうだ。
キっと顔を引き締めて、ハンドガンを持ち直す。
「うがぁあああぁ!!!」
「――!」
意味不明の叫び声を上げて、クリスとシェバの銃撃を避けたマジニが此方に向かってくる。 運の良い奴だな、なんて思いながらも俺は引き金を引いた―――
カゥン――
「……は、ぃ?」
筈だった。 確かに引き金は引いた、それはいいのだが、弾がなかった。 菜月は呆然としながら自分のハンドガンを見つめた。
そんなことをしている間にマジニは菜月との間合いを詰めている。
「よし!ロックが解除できたぞ!」
「――はっ!ちょ、こっちくんなっ!!」
ジョッシュの声で漸く我に返った。 今にも自分に掴みに掛かりそうなマジニを振り払い、エレベーターに乗り込んだ。
菜月に続いてクリスとシェバがマジニがエレベーターに近づかないように手榴弾を投げつけてから飛び乗った。
prev ◎ next
|