- ナノ -

第八話



「んー……と、らいせる?でいいのかな?」

立てられていたテントの文字を首をかしげながら読む。
シェバとクリスはそれを神妙な面持ちで見ていた。

「トライセルだわ……BSAAのスポンサー企業の一つよ。どうしてこんなところに……?」

残念ながら、テントの中には誰もいなかった。
皆……マジニになっちゃったのかな……?
俺はテントの中にあった未使用の救急スプレーを猫糞しながらそんなことを考えた。

救急スプレーをショルダーバックにいれて、テントからでる。
ここはマジニの気配がないから、一人でいても大丈夫なのだ。
テントの内部をくまなく調べている二人を待ちながら、ぼーっとする。

足元の近くには石油が零れて、奇妙な七色を作り出していた。
ここに火付けたら、爆発するのかなぁ……。
そんな危険な事を考えているうちに、二人が戻ってきた。

「待たせたわね、行きましょう」

テントエリアを抜けると大きな建物があった。
中はどうなっているのか知らないが、もうもうと煙と炎が立ち上っている。

「クリス、ナツキ、油田に着いたわ」

「ここか……アーヴィング、もう逃がさんぞ」

施設を睨みながら、クリスが呟いた。
大きな建物の割りに粗末で小さい扉を開けて俺たちは建物の中に入った。

石油臭くて、鼻が曲がりそうだがそのうちなれる……と思う。


中に入るとちょうどアーヴィングが一番奥の階段を上っているところだった。

「アーヴィングめ!やっと見つけたぞ!」

クリスは忌々しそうにその姿を睨むが、周りにはマジニがいる。
すぐにアーヴィングを追うことは出来なさそうだ。

一歩踏み出した瞬間、俺たちに気づいたマジニが声を上げる。

「またかよ……」

どこでゲットしてきたのか知らないが、ボウガンを構えているマジニ。
ここまで大量に出てこられると、流石の菜月も嫌になってくる。

ハンドガンを取り出し、マジニを迎え撃つ。
スコップやら、ビンやらを飛ばされるとこちらも参ってくる。
菜月は自分たちに向かってくる物体を撃ち落していく。
そのうちに、シェバとクリスがマジニを倒す。

今回は雑魚ばっかりだったので、ものの数分で倒し終わった。
さあ、先に進もうと思ったが問題発生。

見るだけでやけどしそうな炎が行く手を塞いでいるのだ。
アーヴィングが先に進めているのだから、何処かに炎を止めるものがあるのだろう。

ちょうど、高台になっているところに上って辺りを見渡す。
案の定それらしきハンドルが見つかった。

「あれね」

ハンドルのもとに行くには、リフトに乗らないといけないようだ。
俺たちはリフトの元に移動する。

リフトは一人ずつ乗らないといけないようだ。
で、誰が乗るの?という視線で二人を見る――

「ナツキ、よろしくね」

「頼んだぞ」

「……はい」

結局は俺なんですね。
もう、何でもいいぜっ!!と半ばやけくそになりながらリフトを両手で掴んだ。
今回はまわりに何もいないし、たぶん安全だろうし……。

ガタン、とリフトが音を立てて滑り出す。
アスレチックみたいでなかなか、面白かった。
勢いに任せて対岸に飛び降りる。

「これを回すんだな」

赤いペンキで着色されたハンドルを握って回す。
――と同時に嫌な音が鼓膜を叩いた。

キュイン!

「……ぇ?」

俺の視界を過ぎったのは嘘だと言ってくれ、誰か。
チェーンソーが見えたような気がするのは、気のせいじゃないような気がしないでもない気がする。

震える手を押さえつけて、ハンドルを回しきると同時に隣に悪夢が。

「んのおおおおぉおおお!!!!」

一気にハンドルから飛びのいた。
ギュインと音を立ててチェーンソーがハンドルを切り落とす。
それを見て、顔から血の気が引くのを感じた。

「ナツキ!こっちに来い!」

先ほどのリフトのところでクリスがライフルを構えていた。
こっちに来てねぇのかよっ!!ずりぃっ!!

安全な場所にいるクリスに恨めしい視線を向けながら俺はその場から離れる。
キュインキュインと耳を劈く音が恐怖を掻き立てる。



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