ゴンドラはある一軒家の二階の前で止まった。 俺たちはゴンドラから降りて、ゆっくりと足を踏み出す。
家の入り口から見えたのは――
「――ヒッ!!」
おそらく味方、の人が一口でワニに食べられた瞬間。 じわりと紅に染まる水に嫌な汗が流れた。
俺の息を呑む声が聞こえたらしい。 気づいたマジニが此方にやってくる。
毎回思うけれど、人の死を見るのはなれない。 怖くて怖くて、銃を握る手が震える……馴れたつもりだったんだけどなぁ……。 やっぱり心の奥底では俺は怯えている。
これが正しいのか、間違っているのか、俺には何もわからない。 でも、生きるためには、この選択肢しかないんだ、そう自分に言い聞かせて俺は再度銃を握りなおした。
にじり寄ってくる敵をハンドガンで迎え撃った。
あらかたの敵を倒して、俺たちは家の二階から飛び降りた。 踵がぐき、と悲鳴を上げたような気がしたが……たぶん気のせい、だと、思う。
ドキドキしながら、桟橋の上を歩いていく。 か、陥没したり、しねえよなっ!!ワニにバクッ!!なんて勘弁だぜっ! 水面に注意を凝らして、出来る限り桟橋の中央を歩く。
――と、その時。 奥へと続く橋が跳ね上がってしまった。 どうやら、マジニが橋のスイッチを押したらしい。これでは、渡る事が出来ない。
「どうするの?」
「あのイカダに乗れば、スイッチのところまで行けそうだな」
クリスが指をさした先にあるのは、危なっかしいイカダ。 イカダはロープが結んであり、一人がレバーを回す事で進むようだ。 勿論俺は、レバーを回すほうで――ってお二人方何故俺を見つめてるのっ!!
「じゃ、頼む」
「はっ?」
「お願いね」
「はぁっ?」
ポンポンと二人に両肩を叩かれ、イカダの方に背中を押された。
…………乗れと!? 世界一ビビリの俺に、このイカダに乗れと!???いやぁああぁああ!!!!
「ちょ、ま、無理だって!むrぃいいぃいああああ!!!」
グダグダ言うな!とシェバに無理やり、イカダに叩き落された。 シェバが黒い……ぐすん。
半泣きの俺が乗ったのと同時にゆっくりとイカダが動き始めた。 クリスがレバーを回し始めたらしい。
ぞわり、と背中を撫ぜる冷たい気配。 俺にはそれが何か理解できる……殺気だ。ここに来てから何度も感じたから、分かる。 目を閉じて、殺気を精密に感じ取る。
「後ろか!」
バックステップをしながら、後ろを振り返る。 ワニが先ほど菜月の立っていた位置に、噛み付いていた。 とんでもない大きさのワニに、菜月は手に汗を握る。
あんなのに、噛まれたらひとたまりもぬぇえええええええ!!!! ちょ、クリス!早くレバー回してぇええ!!腕がもげる勢いで回してぇえええ!!!
クリスも頑張って回しているのだろうが、イカダに乗っている菜月からしたらもっと早く回して欲しいところだ。 未だにイカダは集落の半分程度しか進んでいない。
再び自分に向けられた殺気。 またワニが菜月に狙いをつけたようだ。
「クリス!早くしてぇええ!!!」
「分かってるっ!!」
涙目になってクリスに叫ぶと、必死そうな怒声で返された。 ――と、その時、殺気が強くなる。これは――来る!
「――っは!」
またも噛み付いてきたワニをバックステップで避ける。 ワニは悔しそうに歯軋りをしながら、水の中に姿を消した。
漸くスイッチのところまでイカダが進んだ。 俺はいそいそと上に上るとふぅ、とため息をついた。 ここに上れば、もうワニは襲ってこない。
菜月はスイッチを両手で押した。 ギギギ、と上がっていた橋が降りた。これで渡れる。
俺たちは橋を渡って、奥に進んだ。
prev ◎ next
|