- ナノ -

第六話



「ん……?」

「あら、おはようナツキ」

朝日に起こされて目を開けば、シェバが挨拶をしてくれた。
まさか昨日の夜から、ずっと起きてたのかな?

……まさか、ね。

「おはよう、ございまふぅ〜ぁ……」

ボートから体を起こして、シェバに挨拶を返そうとしたが口から漏れる大欠伸。
クスクス、とシェバに笑われてしまった。

俺は恥ずかしくなってふぃ、とそっぽを向く。
視界に入ったのは、何処かまったく見当のつかない場所。

クリスはとある船着場にボートを止めた。

「さ、行くぞ」

……さ、行くぞってクリスさん、ここ池みたいになってるんですけど……?
しかも、深そうだし……かなり。水が濁ってるせいで底見えないし……大丈夫……か?

「置いていくわよ?」

「お、置いていかないでよッ!!」

菜月は衣類がぬれる気持ち悪さを我慢し、池に足を突っ込んだ。
思っていたより深くはないが、それでも腰をぬらすぐらいの深さだ。

「ぅぇー……」

銃をぬらさないように手で持ち、2人に後れを取らないよう菜月は走る。
だが、水の中。うまく走る事が出来ない。

ザパザパと音を立てながら菜月が走るのを水中から見るものが――。

「――?」

何かに見られたような気がして、菜月は振り返った。
しかし、何も変わったものは見られない。

――気のせいか。

菜月は首を傾げながらも、また水に足を取られないように細心の注意を払いながら走り始めた。

「ナツキ!前よ!」

「え?――ぎぁぁああぉ!!?」

前に進もうとした刹那、大きなワニがその大きな口をこれでもか、と開けて待ち構えていたのだ。
シェバの注意がなかったら、間違いなく自分はあのワニの口にINしていただろう。

菜月は顔を蒼くさせながら、すばやくワニから離れた。

ワニはお腹をすかせているのか、グルグルと喉を鳴らし涎をたらしながら此方を伺っている。
少しでも隙があらば、食べようと待っているようだ。


「じ、ぬがどおもっだぁぁああ!!!」

水の上に立てられた建物によじ登って漸く菜月はちゃんとした呼吸をした。
やっぱり、あのボートをとめたところで待っておけば良かった、なんて考えても後の祭りだ。

もう一度ワニの池を通ると思うと、ものすごく憂鬱だ。


家を調べ終わったクリスが欠けた石版のような物を片手にやってきた。
顔が何それ、って言ってたのかクリスが俺に説明をしてくれた。

どうやら、その欠けた石盤は扉を開ける鍵なのだそうだ。
んな石版がどうやって鍵として使う事が出来るのかは、不明だがとにかく鍵らしい。
それは4つ必要でこの石版で最後だとか・・・他の三つは俺が寝ている間に取ったらしい。

あれ、俺放置されてたの?
……ボートに?一人で?

ちょ、ちょ、クリスさぁーん!シェバさぁーん!!襲われたらどうするんですかっ!!

「その時はその時でしょ?何もなかったんだからいいじゃない」

「……ソウデスネ」

ニコニコと笑ったシェバの顔が一瞬、黒く見えたのは気のせいじゃないはず。


「話してよ、前の相棒のこと」

鍵を嵌める扉の所に向かう途中シェバが唐突にそういった。
クリスは片手でボートを操縦しながら、ゆっくりと話し始めた。

「相棒のジルと俺はある男を追っていた」

――ドクン、と胸が脈打った、気がした。
菜月は胸の鼓動に気づかないふりをして、クリスの言葉に耳を傾ける。

「……アルバート・ウェスカー。元アンブレラ幹部でS.T.A.R.S.隊長だった男だ。
 ロックフォート島の事件で再開してから俺たちは奴の逮捕に躍起になっていた。
 そして、数年前ある情報を得た」

「元アンブレラ総帥スペンサーの居場所だ。俺たちは情報を得るため、そこへ向かったんだ」

何かを思い出しているのか、クリスの言葉は途切れる。
暫くの沈黙の後、またぽつりぽつりと話を続けた。

「ジルは俺を護ってウェスカーと一緒に、崖下に落ちた。
 遺体は見つからず、死んだと思われていた……だが今、手がかりを見つけた。俺は確かめなければならない」

「大切な人だったのね……」

「相棒だったからな……」

ウェスカー……アルバート・ウェスカー……名前を聞いただけで、何故こんなにも胸が高鳴るのだろう。
よく……わからない。


ウェスカー……どんな人なんだろ……。




俺はまだ知らない……

この高鳴りの意味を――






prev next