流石に橋を飛び越えられると追ってこれないみたいで、それからは襲撃も無く安穏に進む事が出来た。 廃れた村についた頃にはすっかり日も暮れて、月灯りが青白く俺たちを照らしていた。
「くぁあぁ……」
俺は目を擦りながら大欠伸を繰り出した。 それを見た運転手さんが苦笑する。
「一体何があったの……」
シェバが村の様子を見ながら呟く。 俺も眠たいのを堪えて村に視線を移した。
デルタチーム、の人たちの死体、が転がっていたのだ。 様子を確認するため俺たちはトラックから降りた。
ヒヤと冷たい空気が、頬を撫でる。
運転手さんが一目散に倒れている仲間の所に行き、安否を確認している。 俺はその後をついて、ぼーっと運転手さんの背中を見つめていた。
ぼんやり、としていたから気づかなかったんだ―― 何で、こんなときに……俺は――役立たずなんだ……――
「あぶないっ!!」
「……えっ?」
クリスの声が聞こえた瞬間――血飛沫が俺を汚す。 一体何が起こったのか、俺にはまったく理解できなかった。
今まで運転手さんがいた場所には、大きな足が置かれていた。
「ぅ、んてん、しゅ、さ、ん……?」
うまく言葉を発する事が出来なかった。 目を塞ぎたいのに、体が動かない。
頬に伝うのは、涙か、血か、俺には理解することができなかった。
「ナツキ!しっかりしろ!!逃げるぞ!!……シェバ!車に急げ!!」
動けない菜月をクリスが引っ張って、車に誘導する。 固定機銃の音が耳を通り抜ける。 バケモノの耳を劈くような叫び声すらも、今の菜月には聞こえなかった。
こんな事してちゃいけないのに、クリスとシェバの足手まといなんかになりたくないのに……。 でも、体がこわばって動かない。ずっとずっと、あの光景が目に焼きついて離れない。
気づいたときにはバケモノとの戦いは終わっていた。
「ナツキ、大丈夫か?」
「……ぁ、」
クリスに肩を揺さぶられて、菜月は漸く意識を浮上させた。 心配そうにクリスが此方を覗き込んでいる。
俺は曖昧な表情をクリスに向けると、ノロノロと立ち上がった。 そんな俺を見たクリスが決心したように口を開いた。
「――ナツキ、お前はシェバと一緒にここから撤退するんだ」
一瞬、クリスが何を言ったか分からなかった。 ――撤退……?ここから、シェバと一緒に?
(……逃げる、ってこと……?)
確かに逃げれば人の死に怯える事も、人を殺す衝撃も感じずに済む。 でも、本当にそれでいいのか? 敵前逃亡、なんてしていいのだろうか?
……ううん、それよりも、仲間を置いて逃げていいのか!? クリスが死ぬなんて想像できない――でも、もしかしたら?
そんなの、絶対に嫌だ。
「嫌よ!」
「嫌だ!」
シェバと俺の声が重なった。 きっとシェバも俺と同じ気持ちなんだ。
「撤退するなら一緒に、でしょ?」
「……俺だって、もう仲間なんだ。置いていくなよ。」
人の死を見るのは恐ろしい、でも、逃げてちゃ駄目なんだ。 ――ぎゅっと手を握り締めた。
「ここからはもう任務じゃない。引き返すなら今なんだぞ?」
「仲間が殺されたのよ!こんなところで帰れないわ!……それに、相棒でしょ。」
「そーそ、俺もこんなところで引き下がれないし、仲間のクリスをおいていく、なんて出来ないよ!」
「さぁ!行きましょ!」
シェバが先陣を切ってボートに飛び乗った。 菜月もその後を続いて乗り込んだ。
その2人の背中を見てクリスは小さく口元に笑みを浮かべた。
ボートはゆっくりと速度を上げて、水しぶきを飛ばしながら発進した。
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