- ナノ -

第五話



「アーヴィングは残念だったな」

「えぇ、でもまだチャンスはあるわ!……こちらシェバ、本部へ」

シェバは本部に通信をした。
俺は黙ってシェバと本部の通信を聞いている。

「こちら本部、どうした?」

「アーヴィングは湿地帯の油田へ向かった可能性が高いわ。デルタチームと合流して油田へ向かいます」

「了解」

ちょうど通信が切れた刹那――
ライダーマジニたちが襲撃してきた。

「うわっ!また、来たッ!!」

「本当にしつこいわね!」

シェバが心底嫌そうに顔をゆがめた。
2人はすぐに固定機銃を飛びつくように引っつかんだ。

菜月はやる事が無いので、助手席に座りドアの窓からマジニを狙撃する。
バイクのタイヤに当ててどんどんとマジニを転倒させていく。少しでも二人が楽になるように。

「二人とも派手に撃つのはいいが、無茶するなよ!」

機銃の音とマジニの投げるダイナマイト、そしてマジニの投げる斧やらなんやらがトラックの装甲に当たる音が
耳に痛いぐらいに響き渡る。

ガキィン!!

「うわっ!!」

トラックのフロントガラスに斧が投げつけられ、罅がはいる。
運転手をやっつけてトラックを止めようって魂胆か!!

菜月はフロントガラスを気にせず、ハンドガンを撃つ。
ガラス片が顔に飛び散って、頬にかすかに傷をつける。

隣の運転手さんが「いっ!!」と声を上げた。
悪い、と謝る時間は無かった。
次から次へと投げつけられる斧やダイナマイトを撃ち落とすのに夢中だった。

カゥン――ハンドガンが軽い音を立てた……弾切れだ。

「俺の銃を使え!」

「あ、ありがとうございます!」

運転手さんが気を利かせて銃を手渡してくれた。
俺はすぐに銃を構え、マジニたちを撃ち抜く。

自分の使っていたハンドガンと使い心地が違うのにわずかに顔をしかめた。
改造されているのか、威力がすごい。
その代わりに反動のせいで少しばかり手がしびれる。

ある程度敵を殲滅し、漸く一息ついた。
自分のハンドガンに弾を詰め、運転手さんに借りていた銃を返した。

「すげぇな、お前」

「はい?なにがですか?」

弾を詰めるのに悪戦苦闘している最中、唐突に運転手さんに褒められ俺はきょとんとした。
運転手さんはそんな俺を見て苦笑して言った。

「銃の腕前だよ」

「そ、そうですか?俺いつも撃ってるときは無我夢中で……」

そんなに俺の腕前はすごいのか……。前、シェバにも褒められたな。
褒められるとなんだか、むずがゆくて恥ずかしい。
俺はへへ、と笑って後頭部を掻いた。

笑っていられるのも一瞬だけだった。

ドォン、とトラックが体当たりしてきたのだ。

「クソ!俺の愛車に何しやがるっ!!」

先ほどまでの優しい表情は何処へ……運転手さんは般若の表情をして敵のトラックを睨みつけた。
すばらしいハンドルテクニックで敵のトラックに愛車をぶつけ返す。

敵方のトラックは横転し、炎を上げて見えなくなった。

「す、すごいですね……」

「そうかい?俺にはこれしかないからね……っとつかまれ!!」

後ろの二人にも聞こえるように運転手さんは叫ぶとアクセルを踏んだ。
ぐん、と体が後ろに引っ張られる。

トラックは加速度を上げ、途切れた橋を飛んだ。

「ぅぁ、」

着地の衝撃で舌をかみ、菜月は痛みに悶える。
隣で運転手さんが大丈夫かい?と聞いてくるが、今は喋る余裕が無い(痛すぎて)

「ぅぅうぅ……」

涙目になりながら、恨みがましい視線を運転手に浴びせる。
はは、と運転手さんは笑って俺の睨みを軽く流した。



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